兎狩り

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兎狩り

「兎?」 「そうだ、兎だ」 僕のオウム返しに、ルイがまたオウム返しに答えた。 僕が異世界に召喚されてもう半年くらいになるのだろうか? ちょっとちゃんと確認しないと分からないが、この生活にもだいぶ慣れたある日の事だった。 「一人前の戦士になった証に、ペルマネス・ニクス山のビック・ペーデスの毛皮を採取してくるんだ」 「何で兎なんだよ?可哀想じゃないか?」 「お前、本気で言ってるのか?」 ルイが嫌そうに顔を(しか)めて顔にシワを刻む。 耳がペタンと寝る姿は人間じゃない。 彼は人間から魔王と呼ばれる存在の直属の親衛隊長であり、現魔王の養子だ。 リュヴァン族のルイ。 平たく言えば狼男だ。 毛むくじゃらの逆三角の体に、作り物のように狼の頭が乗っている。 ちゃんとフサフサのしっぽもあり、バランスを取ったり感情を出すのに欠かせないものとなっている。 僕としてはこの正直な尻尾が可愛い。 今、その尻尾は不機嫌そうに揺れている。 「お前、ただの兎を取って来いって言うと思ってるのか?そこまで私は優しくはないぞ!」 「いや、だって兎だろ?」 どうにも話が噛み合わない。 兎って言ってるが、もしかして別の生き物なのでは? 「確認だけどさ、兎ってあれだろ? 耳が長くて、後ろ足て跳ねるやつだろ? 穴掘って巣を作る…」 僕の知ってる限りの兎のイメージをルイに突きつけると、彼はうんうん、と頷いた。 「そう、多分そいつだ。 分かってるじゃあないか?」 いや、益々意味わからん!やっぱり兎じゃん?! 「ビック・ペーデスは大型の兎だ。 一応言っておくが、ちゃんと大人の毛皮を取らないと認められないからな」 兎だろ?大きいって言ってもせいぜい中型犬より小さいくらいだろ? 戦士の試験がこれで良いわけ? 「見届け人は兎を逃がさないようにするだけで、直接手出しはしないからな。 お前の手で兎を仕留めるんだ。 ベティもお前の身の回りの世話をしてもらうのに連れていくが、狩りの手助け禁止だ。 狩猟も解体もちゃんと自分でするんだ」 「えぇ…解体はちょっと…」 「何甘えた事言ってんだ! 狩猟と解体はセットだ!覚えておけ! 有事の際はお前が勇者だからって誰も助けてくれないんだからな!」 ルイの厳しい優しさが辛い… マジか、僕は魚も捌いたことないんだぞ… VIPなんだから甘やかしてくれよ…
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