兎狩り

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「…女の人なの?」 「…エドナ・グレという。 私に戦い方を教えてくれた女戦士だった。 ベティの育ての親でもある」 「え?そうなの?」 「エドナ様は第六王女だった。 グレ氏は豹族(パーラドゥス)の出身だから陛下からベティを預かったらしい。 彼女はベティを本当に可愛がっていた。 今の彼女がいるのはエドナ様のおかげだ」 「そう、なんだ…」 ベティも大変だったんだな… 「ここはエドナ様が現役だった時に、戦士の試験をするために用意した場所だ。 私にとって特別な場所だから大切に保管している」 「ルイもここで試験を受けたの?」 「そうだ。 十四の時にエドナ様に連れられてここに来た。 その時の方が厳しかったぞ。 お前なんか楽すぎて、エドナ様が見たら(ぬる)いとお怒りになるだろうな」 鬼教官だったのかな… 「それでも」とルイは言葉を続けた。 「今の私があるのはエドナ様のおかげだ」 そう語るルイは嬉しそうで寂しげだった。 その姿を見て何となく察した。 彼はエドナのことが好きだったんだ… 師弟としてじゃなく、一個人として彼女の事が大好きだったんだと… 話し終えた頃には夕日が山の向こうに沈む所だった。 「お喋りは終わりだ。 日が落ちると一気に寒くなるからな。 明日風邪で寝込まれても困る」 固めた雪を詰めたバケツを持ってルイが小屋に歩き始める。 僕もそれに習った。 エドナの小屋から漏れる明かりの中に、ベティの動く影が見えた。 僕はチラリとルイの顔を盗み見た。 ルイの視線は小屋の中で動くベティの姿を見つめている。 夕日のせいか、その横顔に哀愁が漂っているように見えた。
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