兎狩り

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✩.*˚ 「ルイ様!」 城内の回廊を歩いていると、怒ったような足音と若い女性の声が重なった。 音と声だけで相手が誰だかすぐに分かる。 「…何だ、ベティ?」 また怒ってるのか…内容は容易に想像できるが… 私に向けられた非難がましい視線が痛く突き刺さる。 高い位置で髪を括り、黒いメイド服を着た小柄な姿は愛らしいが、人も殺せそうな視線で私に食ってかかる。 「ミツル様に《兎狩り》だなんてまだ早すぎます! もしもの事があったらどうするんですか?!」 「…随分過保護だな… 陛下が、ミツルならできると踏んだから私に命じたんだ。 アイツも一応勇者なんだから、いつまでもお遊び気分でいるのは良くない。 戦い方を覚えるいい機会だ。 私は十四の時からやっている」 「ルイ様と一緒にしないで下さい! ミツル様は繊細なんです!爪も牙も筋肉も無いんですよ!」 いや、筋肉はあるだろ… そう言いかけてあわや口を噤んだ。 だからそんな顔するなって… 半分獣人の彼女は喉の奥で獣の唸り声を発していた。 やばいな、本当に機嫌が悪い。 「そんなにミツルが大事か?」 「そうですよ、私にとって陛下の次に大切な方です」 「そうか。 なら尚更ミツルを行かせるべきだ。 男が成長するためには、一人で考えて決断し、行動し、達成感を得ることも大事だ。 それが自信に繋がるし、その自信を持つ者は良い戦士になる」 「それは戦士に必要であって、勇者のミツル様にはもっと他にやりようがあるのでは無いですか? それに、《兎狩り》はもうほとんど行われない戦士の儀式でしょう?」 そう言われると少しムッとする。 私はこの儀式が特別なものであることを知っている。 「戦士が誇りを持ち、周りから認められる大切な儀式だ。 ベティには何も思い入れは無いかもしれないが、私にとっては特別な事だった。 エドナ様に認められたのが今の私に繋がっている。 ミツルにとっても自信に繋がると信じている」 私の言葉にベティはそれ以上返さなかった。 《エドナ様》の名前が彼女の口を閉ざしたのだろう。 そのまま静かに「失礼致します」と言ってお辞儀をすると足早に去っていく。 私はその背中を黙って見送った。
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