兎狩り

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「バオォ!」 「ブォォ!」 森の奥からもう一頭が飛び出し、雪を砂煙のように上げながら吠えるビック・ペーデスに突進して行った。 ぶつかり合った巨体が雪原を転がる。 ビック・ペーデス同士での争いが始まった。 後から現れた兎の方が一回り大きい。 二頭が立ち上がって大声で威嚇を繰り返している。 大きい方のビック・ペーデスが前足を振り上げた。 鋭い爪の一撃が空を裂いた。 「ブファ!グシュ、グフッ、フッ、フゥ」 悲鳴を上げながら小さい方が後退る。 額の皮がめくれて肉と骨が見えていた。 鮮血が溢れて雪に滴り落ちる。 「ブォォオォ!」 一際大きな声で威嚇され、敗者は逃げ出した。 よろけながら逃げる敵を追わずに、勝者は僕達に向かって振り返った。 バレたか? 思わず視線をルイに向ける。 ルイは静かにしろと合図だけ返した。 僕達に向かってきたと思ったビック・ペーデスは雪の上で足を止めた。 長い鉤爪のある手で何かを雪から引っ張り出すと何かを食べ始めた。 どうやらただの餌の取り合いだったみたいだ。 「…ミツル、どうする?」 ルイが小声で僕に確認する。 「このでかいのを仕留めるなら私が先に出て囮になる。 もちろん別のやつを探すでもいい。 こいつとの戦いを避けたところで誰も文句なんか言わないからな」 ルイの提案に僕はすぐに返事が出来なかった。 早く済ませて帰りたいけど、倒せる自信はない。 でもここで逃がしたら、また次にいつ見つけることが出来るか分からないし、何より結局同じ個体に出会(でくわ)してまた振り出しという事になるかもしれない… あぁ、もう、それなら一か八かやってみっか! 僕の答えは決まった。 腹を据えて「行く」と答える。 僕は右の腰に帯びた剣に触れた。 《嵐》の感触を確かめ、すぐに抜けるよう柄に手をかける。 僕の戦う意思に応じて《嵐》は鋭さを増す。 やる気出せば出すほど威力が上がるチート剣だが、その逆になればただの剣と変わらない。
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