兎狩り

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「教えた通りにやるだけだ。 私が奴の右側に回って意識を持っていくから、お前は左側から一気に攻めろ。 奴のお前への反応は遅れるから、迷わず一気に左脇の下を剣で貫け。 心配ない、グランス様から頂いたその剣なら必ず出来る」 ルイの檄に僕も強く頷いて見せる。 ルイが足元の雪を固めてビック・ペーデスの近くに放り投げた。 雪玉が雪を溜め込んだ枝に当たり、大量の雪が枝から落ちた。 雪の落ちる音に驚いて立ち上がるビック・ペーデスにルイが雪玉を投げながら前進する。 ルイの姿を見つけてビッグ・ペーデスが動いた。 あの巨体で雪から三メートル近く飛び上がって前足から飛び込む形でルイに襲いかかる。 それでもルイは慣れたもので十分余裕を持って回避した。 雪から埋まった前足を引き抜いて、ビック・ペーデスがさらにルイに迫る。 無防備なビック・ペーデスの脇腹が僕の前に晒された。 完全に僕に気付いていない。 僕は木陰から飛び出して、身体を大きく見せるためにルイに向かって万歳のポーズをとるビック・ペーデス目掛けて走った。 無防備な脇腹に剣を突き立てる。 「ギャッ!」 悲鳴を上げて獣が飛び上がった。 骨に当たったのかあまり深く刺さらなかった。 僕の覚悟も足りてなかったらしい。 「バオォ!」 尻もちを着いたビック・ペーデスに弾かれて、雪を転がった。 「ミツル!爪に注意しろ!」 ルイの怒鳴り声とビック・ペーデスの怒り狂った咆哮が重なった。 振り下ろされる長い鉤爪。 警告するように、ガタガタ、と音を立てて《嵐》が震えた。 顔を上げた僕の眼前にビック・ペーデスの太い腕が迫っていた。 慌てて剣を突き立て、振り下ろされるビック・ペーデスの手の平を串刺しにした。 「バオ!ブフォフォ!」 慌てて手を引っこめるビック・ペーデスだったが、雪の上に赤い染みが広がり、自慢の鉤爪の付いた指が一本転がった。 「ぐぅ!あっぶねぇ!」 のたうち回る巨体に潰されそうになりながら何とか距離を置こうと離れる。 剣を持つ手がガクガク震えた。 嫌な汗が止まらない。 一歩間違えば死ぬかもしれないと思うと恐怖で吐きそうだ…
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