兎狩り

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✩.*˚ 『私は戦士だ』 エドナ・グレの口癖だった。 とりあえず、何か問題があれば力で解決するタイプの獣人だ。 至極シンプルな考え方と、サバサバとした性格で戦士達を束ねていた。 そのカリスマ性から、獣人の中で初めてアンバー王から王女の位を賜った。 闘争心の塊のような熱い魂に、皆の魂も熱を帯びた。 問題もなくはなかったが、それ以上の魅力が彼女にはあった。 鍛え抜かれた体には豹の斑紋が刻まれ、癖のある赤銅色の髪をなびかせる姿は神々しすらあった。 若かった私は彼女に憧れた。 入隊試験の《兎狩り》に合格し、彼女の部隊に見習として配属された時、胸が高鳴ったのを今でも鮮明に覚えている。 それからは苦難と挫折と自分を鼓舞する日々だった。 当然だ。 王に仕える直属の部隊のそのまた精鋭だ。 それなりに役に立てる自信があったのだが、それが思い上がりだと知るのに時間はかからなかった。 それでも除隊しなかったのは彼女がいたからだ。 彼女は落ち込む私に豪快に笑い、背中を思いっきり殴って言った。 『自信をつけろ! でっかい図体の男がウジウジするな! 背筋を伸ばせ!視線を下げるな!前を見ろ! お前の中の敵はお前にしか倒せない!』 彼女の言葉は私の中で今も生きている。 それからいくつもの紛争や国境警備の任務にあたり、気がつけば十五年もの月日が経過していた。 私は彼女の補佐を任され、副隊長になっていた。 私は彼女が求めた戦士に着実に近づいていた。 『お前になら全て預けれるな』 そう言って彼女はまた豪快に笑っていた。 その笑顔が何故か少し寂しげに見えたのは私の思い違いだったのだろうか? ある日、私が新兵と訓練用の宿営地にいた時、彼女は一人の少女を連れてきた。 彼女はボサボサの黒髪に虚ろな怯えた目の少女の肩を抱き、『私の娘だ』と紹介した。 顔には薄ら花のような模様が浮き出ている。 豹の梅花模様。 本当に実の子かと思い混乱したが、彼女が妊娠してた事実も結婚の事実もない。 どうやらアンバー王が前線の視察に訪れた時、人間の商人から獣人達を取り返したらしい。 その中に混ざっていた子供の一人で、引き取り手がなかったので連れ帰ったそうだ。
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