ジャンクフード

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✩.*˚ 結局《ガム》は途中でギブアップした… そうだよなぁ…そんな訳無いんよ…異世界ルールの事忘れてたわ… 口の中の生臭さを消すために紅茶をもらったが、なかなか《ガム》の主張が強い。 「もう一杯いりますか?」と僕の世話をしてくれるメイドのベティが紅茶を勧めてくれた。 彼女は僕に紅茶を勧めながら口をもぐもぐさせている。 彼女は人間じゃない。豹族の母親と人間の間に生まれた魔族と人間のハーフだ。元々、希少種として人間のブローカーに捕まっていた所をアンバーが保護したらしい。 見た目は人間に近いが、彼女の身体能力は母方の血を色濃く受け継いでいた。 僕が持ち帰った《ガム》に興味を持っていたので、彼女にあげたら喜んでいた。 あの《ガム》を涼しい顔で食べるとか顎強っ! 「それ、顎大丈夫?」と、恐る恐る訊ねると、彼女は美味しいおやつを食べた時の女子みたいに目を輝かせて答えた。 「噛めば噛むほど味がします。とっても良いものです」 お気に召したようで何よりです… ぶっちゃけ、捨てずに済んだので僕としては助かった。せっかくもらったのに、食べれないとか申し訳ない。せめてベティが喜んでくれたならそれで多少は救われる。 「それにしても、陛下も随分不思議な宿題を出されましたね。まだだいぶ掛かりそうですが、私もお手伝いしたほうがよろしいですか?」 「うん。何か思いつく物があったら教えてほしいかな。ベティの好物とかでも良いけど」 僕には土地勘が無いから、他の人に教えてもらうのが早い。そういう意味ではコミュニケーションを計る目的などもあるのだろうか? とりあえず、アンバーの課題達成にはまだまだほど遠い。 なにか無いかと一緒に考えてくれていたベティが、急に思い出したように手を叩いた。 「あ!良いものあります!卵なんてどうですか?」 「卵?それって珍しいの?」割と毎日食べてる気がするんだけどな… 僕の考えを他所に、彼女は卵について語った。 何も思わずに食べていたけど、基本的にこの世界では卵は高級品らしい。 日本人の僕からすると安くて使いやすいものの代名詞なんだけどなぁ… 「いつも食べてるのは飼育可能な鶏の卵ですが、私のおすすめの珍しい卵は《カラカラ》という大型のトカゲの卵です。 岩場に住むトカゲで、産んだ卵に鉱石を貼り付けて隠します。滋養効果が高くてすごく元気になりますよ。黄身の色が深い緑色で《エメラルド・エッグ》なんて呼ばれるくらい綺麗なんです」 「へぇ!それは見てみたいな!」 トカゲの卵っていうのは何か気になるけど、卵なら《ガム》よりは食べやすいだろう。 「分かりました!陛下から外出の許可を頂戴してきます!」 元気にそう言い残して、ベティは足早に部屋の出入口になっている綴織(タペストリー)に姿を消した。 すごく張り切ってるな。僕のためにあんなに頑張ってくれるなんてありがたい。 「…よろしいんですか?」と、それまで部屋の隅で静かにしていたアレンが呟いた。 彼は魔族では無い。ここでは珍しいが僕と同じ人間だ。 彼はオークランド王国という別の国から来た魔導師だ。元々は《勇者》である僕を人の国に取り返すために必要になるアーケイイックの地図を作ることだった。 任務に失敗して魔族に捕まってしまったが、アンバーの計らいで、僕の家庭教師みたいなポジションに収まっていた。 そして、ずっと喋らないけど、この部屋には実はもう1人人間がいる。 「外出の許可って言ってたけど、出かけるならアドニスも一緒に来る?」 「私はミツル様の護衛ですのでお供いたします」 壁を背に立っていた青年が僕の問いかけに静かにそう答えた。 彼はアレンと同じくオークランド王国の貴族の家出身の騎士だった人だ。この世界では《祝福》と呼ばれる特殊能力を持った人で、人の国では《英雄》と呼ばれる存在だったらしい。 《勇者》が魔王に召喚されたと知って奪還に来たが、僕はオークランド王国の人間至上主義みたいな考え方に納得できなかった。 その結果喧嘩みたいになってしまいギリギリ僕が勝った感じだ。今思えば良く勝てたな、という感じだが、その時に僕が彼の《祝福》を奪ってしまったから、今は剣の腕の立つただの人間だ。 僕と関わってしまったので彼らは帰る場所を失ってしまったが、オークランド王国という国の闇を知ってしまった僕はそれで良かったと思っている。 「二人は《カラカラ》って知ってる?」と訊ねたが、オークランド人の二人には聞き馴染の無いものだったようだ。 「お話は聞いてましたが、《カラカラ》というトカゲは知りませんね」と、答えるアレンにアドニスも頷いた。 珍しいトカゲなんだろうか? 少し嫌な予感がしてくる…ここは僕の知ってる世界の常識が全く通じない異世界だ… 「まさか…ドラゴンみたいなのとか?」 「可能性は無くは無いと思いますよ。アーケイイックは未開の地で、珍しい生き物の宝庫ですから」 嫌な可能性を否定せずにアレンは能天気に笑ってみせた。 やっぱりここは異世界だ… 軽はずみに決めた事を後悔したが、アンバーのところに行っていたベティが戻ると同時に「許可いただきました!」と報告したことで逃げ場を失った…
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