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✩.*˚
「わぁ!これが《ジャンクフード》ですか?」
机に並んだ料理を眺めてペトラが目をキラキラさせている。
本当に彼女は食べるの好きだ。ペトラは初めて見るハンバーガーやポテトなどに興味津々だ。
何かと代償があった気がするが、努力の甲斐あって《ジャンクフード》の再現の許可がおりた。
まぁ、できる範囲での再現なので、材料などはちょっと違うが見た目はそれっぽくできている。
よく僕の拙い説明でここまで再現できたもんだ。料理長に感謝と敬意を伝えたいと思う。
「《ピザ》まで作ったんだ!すごいね!」
ちょっと歪な感じだが、座布団のようなパン生地にひき肉のソースと玉ねぎを乗せたピザは香ばしい香りとたっぷりのチーズで再現されている。カロリーがヤバそうだがこれはこれですごく美味しそうだ。
「残念ながら、《マヨネーズ》という物は用意できなかったがね。料理長が嘆いていたよ」と言いながらアンバーはお品書きみたいな紙を眺めている。
残念ながら彼は実食できないので見学だ。
そして食べれない人物がもう一人…
「ちょっと?いくらなんでも栄養偏り過ぎじゃない?野菜食べないと身体に悪いわよ!」と叱るのは仮面を付けた金髪のゴスロリ少女だ。
彼女もアンバーと同じく《不死者》であり、一切の飲食ができない。不死者なのに栄養バランスにうるさいのは彼女が《医者》と名乗っているからだろう。
「胃がもたれそうな料理ばかりだな…」とルイは既にげんなりしている。
確かに、濃い味が苦手なルイにはちょっときついかも…
まぁ、そういう事もあろうかと、《ジャンクフード》じゃない料理も用意してもらってる。
立食パーティーだから各自好きなものを食べたら良いと思う。
好き嫌いもあるだろうし、無理してまで食べてもらおうとは思っていない。だってそんなの楽しくないだろう?食事の好みなんて人それぞれだ。
「好きなもの食べたら良いよ。料理ならまだまだ来るからさ」と笑って答えると、不意に袖を引かれた。
「ミツル様、これはなんですか?」と、ペトラの指差す先にあったのは山積みのナゲットだ。ちゃんといろんな味のソースが用意されていて、再現度が高い。
「《ナゲット》だよ。鶏肉を刻んで、寄せ集めて油で揚げたもので、好きなソース付けて食べるんだよ」と教えてあげた。
「姉上。珍しいのは分かりますがあまり食べすぎないで下さいよ?」
そう釘を刺すのはペトラとそっくりな顔の双子の弟のイールだ。姉に比べて食の細い弟は繊細で、《ジャンクフード》は進まないようだ。
この二人は双子でも性格も嗜好もだいぶ違うらしい。
「手づかみで食べるのは行儀悪くないか?それに脂っこくて手がベタベタになる」とクレームをいれるのは彼が繊細だからだろう。
「これはこれでたまには良いんじゃない?」と笑うペトラの口元にはかなり思い切った量のソースがついていた。
本当にこの双子は全然違うなぁ…
不機嫌そうな弟と対象的に、ご機嫌な姉はフードファイター顔負けな食べっぷりを披露している。
「美味しい?」と訊ねると、彼女はにっこり微笑んで食べようとしていたソースの付いたナゲットを《あーん》してくれた。
ちょっと塩気の薄いナゲットは少し味気ないが、ソースの方は絶品だ。さすが王城の料理人が手掛けているだけある。
他の《ジャンクフード》も僕の世界のものとは違うが、それはそれで全部美味しかった。特にチーズは濃厚で思った以上にお腹に溜まった。
会場をウロウロしながら料理を見学していたアンバーが戻ってきて僕に感想を訊ねた。
「我が国の《ジャンクフード》はどうだい、《勇者殿》?」
「ちょっと違うけど、悪くないよ」
僕のいた世界とは違うけど、これはこれで良い。違うから面白いんだ。
2つの世界が歩み寄った結果に僕は満足していた。
END
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