兎狩り

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『それならまだこの山小屋であの子と暮らすよ。 私が居なくても、お前が居れば安泰だろ?』 『私では貴方の代わりにはなりませんよ』 『いつまでも半人前でいられると思うな、ルイ。 お前はいつだって私を基準に自分を判断している。 それは本当に無駄な事だ』 彼女はキッパリとそう言って私を否定した。 言葉を選ばない彼女らしい言い方だ。 オレンジ色の瞳が私を品定めするように見ている。 『私はお前を戦士として育てた。 戦士がいつまでも女の背中を追い続けるな、みっともない。 お前も戦士なら私を越えてゆけ。 私の速度に合わせて背中を見続けるなら、お前は一生私を越えられないぞ』 『…それは…そうですが…』 返答に窮する私に彼女は『自分を誇れ』と言った。 『ルイ・リュヴァンお前はいい男だよ。 それは近くで見てきた私が一番よく知っている。 お前は私とは違うタイプの戦士だ。 個の強さだけではなく、チームワークの強さを生かせるリーダーだ。 これからこの国に必要なのはそういうリーダーだと私は思っている』 『最初から帰還するつもりは無かったのですか?』 私の問いかけに彼女は飄々とした様子で『まあ、正直なところ半々だったな』と気持ちを吐露した。 『お前とは《兎狩り》からの付き合いだ。 お前の癖も考え方も、悪い所も良い所も、弱さも強さも全部知っている』 思い出をなぞるように彼女は穏やかに笑った。 『あの痩せた少年が、よくこんな立派な戦士になったものだ。 ルイ、お前は私の誇りだよ。 私の最高傑作だ』 彼女は両腕を伸ばし、私を抱きしめた。 彼女の赤銅色の髪が私の胸に沈む。 『お前は私の誇りだ』 彼女の言葉が私の心に刻まれる。 胸が熱くなる… 私を抱きしめる彼女の身体は何と小さくなったことか… 数多の戦場を駆け、倒れること無く敵を屠り、味方を担ぎ、多くの部下の命を背負ってきた身体にしては、頼りないほど細く小さかった…
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