兎狩り

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この小さな身体で背負い続けた荷を受け取る時が来たことを知る。 私も彼女の体を抱きしめた。 私が彼女から巣立つ時だ… 『必ず、貴方に恥じぬ働きを…』 言いかけた私の口元に指を押し当てて、言葉を遮って彼女は笑っていた。 『いいよ、分かっている。 お前の事はなんでも知っているさ』 そう言ってまた私の胸に顔を寄せた。 『まだ帰らないだろ? 今日は冷えるから温めてくれ』 とんでもない発言に私は言葉を失った。 『…本気で言ってます?』 『何だ?年増女が相手じゃ嫌か?』 『いや、そういうことでは… その…私がですか?』 『お前以外に誰に言うんだよ。 女に言わすなんて酷い男だ』 私をからかう彼女は一人の女性になっていた。 彼女と結ばれた日、私は彼女の荷を引き継いだ。 後日アンバー王から正式に隊長への昇格と、部隊から軍への編成の変更があった。 そこで王の直属の軍を任されることになった。 今までの部隊とは桁違いの人数の命を背負うことになる。 それでもあの人を失望させるわけにはいかない。 私は奮闘し、何とか軍をまとめあげることが出来た。 陛下から軍略や兵種、兵站(へいたん)等の知識を学んだ。 賢くない私には難しい話だったが、優秀な頼れる部下の存在もあり、二年ほど時間はかかったが、戦闘部隊から軍隊に仕上がった。 軍隊が軌道に乗ってきた頃、私に訃報が届いた。 彼女が死んだ… 私の敬愛するエドナ・グレ… やっと貴方にふさわしい男になれたと思ったのに。 絶望する私を、高く高く青い空が見下していた。
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