未来の世界∞SFの世界

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「そう、まさにその通り!」  突如、大声を出したエフ氏に、店じゅうの客が驚いて振り返った。 「ただの科学礼賛、明るい未来を描いているだけがSFじゃない。かといって、単に今の進歩に背を向けて、科学や文明を非人間的だと批判したり、破壊や破滅を導く負の側面だけをクローズアップするのも、それはそれで、耳をふさいでいるようなものだ」  エフ氏の身振り手振りが大きくなり、ビール瓶に当たりそうになる。 「科学と文明と人間の行く末について、多種多様な分野の知識を持って、よく考察し、対峙する姿勢。そういう目線を持った作品を、この雑誌では紹介しているんです!」  いや、そんなことを言ったわけじゃあ……とぼそぼそエヌ氏が口ごもる。 「でもね、私は、もう一方で、今の風潮を決して悪いものだとは思ってない」  エフ氏の勢いは、とどまるところを知らなかった。 「大人でも子供でも、読者の皆さんには、空飛ぶ円盤や、色々な宇宙人の想像図から、惑星や恒星、銀河、宇宙に関心を持ってくれたり、怪獣の生態から古代生物や自然環境に造詣を深めたり、異世界や異次元や平行世界の話から、時間とか数学とか物理学に興味を持ってもらってもいい」  三人の作家たちは、エフ氏の能弁を、にやにやしながら黙って聞いている。 「その上で、僕ら人間が、これからの世界の中で、新しく出会う現象や事物にどう向き合っていくべきか、皆さんなりに想いを致す、そのよすがとして、この雑誌で紹介する作品を見ていただきたいんです」  そこまでまくしたててから、エフ氏は、テーブルの上のビールグラスを、ぐっと飲みほした。 「そういうものが、これまで文学や哲学が果たしてきたのと同じように、これからの日本人、いや人類に求められる素養になるんじゃないか……てね」  そう言ってしまってから、エフ氏はぺろりと舌を出した。
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