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季節はかなり涼しくなってきているというのに、ハンカチで額と首をぬぐっている太った白いシャツ姿の男を先頭に、茶色のジャケットにタートルネックのシャツと、すっかり秋の装いの男、そしてその後から、グレーのスーツにワイドカラーのシャツ、ストライプのネクタイで決めた男の三人が、バーの中に漂うタバコの煙を振り払うように入ってくる。
「あ、いたいた」
太ったひとりが、エフ氏に目をとめて、フロアを横切り、近づいてきた。
「三人も呼びつけるなんて、珍しいこともあるな」
他のふたりも、ずかずか近づいてきて、ボックス席にどっかと座った。
三人の顔にどこか見覚えがあって、エヌ氏は首をひねった。
「ん、どちらさま?」
きっちりとした服装にも関わらず、軽妙な口調で、でも落ち着き払った様子で、スーツ姿の男が尋ねる。
「わ、わたしは……」
手にしたままの雑誌をぎゅっと握る。
「編集部の人……いや、新人にしては年が行ってるな」
タートルネックの男が、大きな目でエヌ氏をじっと覗き込む。
突然、エフ氏が顔を上げるなり、一言放った。
「こちらは、我らが雑誌の読者だ」
まるで、自慢の弟子でも紹介するかのように、三人を見渡す。
三人はエフ氏の変わらぬ鋭い眼光に、「お、おう……」とたじろぎ、あらためてエヌ氏に目をやった。
「あ、いや、家がここから市電に乗っていった先にあるもので、ときどきここに立ち寄るんですが、たまたまさっき、お名前を聞きまして……」
なぜか言い訳めいたことを並べているエヌ氏を、三人は無表情で見守った。
エヌ氏の声がか細くなって聞こえなくなると、太った男がにっこりと笑って、口を開いた。
「この三人が一緒になることは滅多にない。僕は今夜ここに戻って来たが、明日にはまた発たないといけないんだ」
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