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エヌ氏の目線を柔らかく受けとめて、エフ氏はにっこりと今までにない笑顔を返した。
「大丈夫。今どきの子は成長が早い。与えて読ませれば、もう後一、二年もしたらすらすら読んでいますよ」
ボックス席の三人も、わずかにうなずいている。
スーツの男が、エヌ氏に声をかけてきた。
「私たちが子供だったころと今とでは、あるとあらゆるものが違います。これからの子供には、できうる限り、知識や情報を得る機会を設けてあげるべきでしょう」
そう言いながら、とぼけた表情でこう続けた。
「とはいっても、ムダな情報や質の悪い情報は好ましくないですけれどね」
白シャツの男がわって入る。
「その点、エフ氏の著作なら折り紙つきだろう」
それを聞いていたエフ氏は、さらにビールを飲みほすと、勢い込んでエヌ氏に持ちかけてきた。
「そう、そういえば質問の途中だった。この本は少し子供向けにかみ砕いて書いているんですが、基本の趣旨は私たちの雑誌と同じです。あなたはどう思います?」
エヌ氏はいきなりふられて、少しの間、考えこむようにあごに手をあてていた。
それから、訥々と話し始めた。
「宇宙船とか怪獣とかロボットとか、光線銃のドンパチとか、映画や子供の雑誌でやっているじゃないですか? それはそれで面白いですが、そういうのとはちょっと意趣が異なるものを紹介していく、何というか、ただの流行りすたりじゃない、本気で未来の世界とか人間のありさまを考証している作品が多くて、文学を目指すのともちょっと違っていて、もっと科学とか技術を批評的、相対的に見ている……」
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