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未来
……………
俺に関することのゴタゴタが終わって、ヒーファは魔王として本来の仕事にかける時間を少しずつ増やしていった。
…俺の方でもこの世界について勉強していて、分かったことといえば、今居るのは一つの大陸であり、魔族と人間の力関係が拮抗した状態で各地の拠点となる巨大な街や国の首都を制圧する、されるの状態らしい。この城はヒーファが実戦投入されて初めて制圧した人間側の拠点だったらしい。
今はこの城を奪われることのない様に要塞を建築して守りを固めようと他の魔族たちと共に頑張っているらしい。
……俺?俺は、たまに攻めてくる人間たちの軍を地面を蹴った衝撃で吹き飛ばしてるぐらいだ。ヒーファは『たとえ力が強くても、戦闘訓練も何もやってないのだろう?勇者の力を持っているからと血を見る戦場にお前の身を投じたくはない。城でゆっくりと休んでいても構わないんだぞ?』…と言う。やろうと思えば、この力で虐殺劇を繰り広げることだってできるだろうけど、そんなことしたいとは思わない。だから血を見ずに、魔族たち皆んなを守れる方法を考えた結果がこれなんだ。
殺してるわけじゃないから進軍してくるスパンは短いけれど、何度来られたって俺は負けないから問題ない。数回、秘密兵器みたいなものを人間の軍が持ってきてたけど、そういう時は無理せずにヒーファや魔族化スライムこと、『マーペント』君を呼べば無事に事を終わらせられるからね。
「兄さん、今日は俺が向かうからヒーファさんの方に行ってあげて〜」
最近になって、龍矢も魔族としての身体に慣れてきたみたいで俺の代わりに人間の軍を蹴散らしにいく事がある。おかげで休める日も結構多い。
平穏な生活がおくれてるわけじゃないけれど、ヒーファも龍矢も魔族たちも……そして、まだ目覚めないけど母さんだって居る。苦しさなんてなかった。
「………雨?」
…窓からは先ほどまで日の光が差しこんでいたのに、空は突然曇り、ザアザアと音をたてながら雨が降ってきた。
「リュウジ、居るか?」
雨が降ってきて直ぐ、ヒーファが部屋に入ってきた。
「ヒーファ…どうしたの?ひょっとしてもうお昼だったりする?」
「いや……そうじゃなくてだな。少し頼みたい事があるんだ」
……頼みごと?ヒーファと俺が番になってから頼みごとをされるなんて初めてかな?
「別にいいけど…何かあったの?」
ヒーファのあまり見ない雰囲気に少し不安になってそう話しかけた。
「………今から、狩猟に出るんだが、着いてきてくれないか?」
「え?……たった今雨が降り出したところだよ?」
魔族のやる狩猟がどんなのかは知らないけど、天気がいい時にやるものなんじゃ…
「ああ……雲の上でやるんだ。雲の上なら雨も降らないし、『ガルダ』っていう鳥の魔物が居るんだが、そいつらは雨雲の上に住んでいるから……あの雨雲が流れてくるのが今日だったから……その、来てはくれないか?」
…なるほど、それなら大丈夫か。
「…分かった、ついていくよ……そういえば、二人だけで一緒に出かけるなんて初めてかもね?」
「…!!そうか、ありがとう!じゃあこっちに来てくれ、すぐにあの雲まで飛んでいくぞ!」
窓から俺とヒーファは雨を降らしている雲の上を目指して飛び立った。
後で知った事だが、ガルダを狩ってその肉を食わせるというのはドラゴニュート及び、ドラゴン族の求愛行動らしい…
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