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初まりの魔
今日は帰ってこないみたいだ。よかった…
最近、いつにも増して兄の暴力が激しくなってきている。母さんと弟を守ろうと頑張ってはいるものの、体も疲れ切っていてそろそろ限界だったため、助かった。
…父さんが交通事故で亡くなってからだった。兄は母さんのせいだと暴力を振るうようになった。事故の原因が相手側だと言っても聞かないのだ。事故の後に生まれた弟にも暴力を振るうのだ。正直、俺が二人を守らないと母さんも弟も命が無かったと思う。祖父母はもうこの世に居らず、警察も頼ることが出来なかった。何故かって?兄は有名なヤクザ…?とかに入ってるのか後ろ盾が怖いからだとか…
家族を守れるのは俺しかいなかった。母さんは何度も『ごめんなさい』と謝る。もう、聞き飽きる程に…でも、母さんにももうどうすればいいのか分からないのだろう。俺だって分からない…
そんな激戦の日々に久々の休日のような日が訪れたのだ。そりゃあ、ぐったりして寝ようとしてしまうのも無理はないだろう。
今は亡き父さんが兄さんの夢枕にでも立って、叱ってくれないだろうか?そんなことを思った日もある。兄は父さんが大好きだったからね。
「……だめだ、変なことばっかり考えてたらゆっくり寝れない……今日はリラックスしていいんだから…」
ベッドに寝転がって、目を瞑った。その時だった。
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「っ!?」
突然、ベッドが硬くて冷たい床に変わった。そんな感じがして目を開ければ、そこは全く知らないが、少し豪華な雰囲気のする建物の屋内だった。
(…俺はまだ寝てないはず……寝てる間に拐われたって事はないと思うけど…どこだここは!?)
疲れも忘れて飛び起きてしまった。そして辺りを見渡せば、ガウンを着て…あれは…王冠…?を被った男の人が居た。
「…ああ、勇者よ…異界の者よ…どうか我が国を…お救い下さい…」
そう言ったかと思うと、その人は膝から崩れ落ちて床に倒れてしまった。
「ああもう!何が起こったんだよ…あの人、とりあえず楽な姿勢にはさせてあげた方がいいのかな」
とても疲弊している様子のその人をとりあえず、壁にもたれかけさせた。
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