初まりの魔

1/3
前へ
/29ページ
次へ

初まりの魔

今日は帰ってこないみたいだ。よかった… 最近、いつにも増して兄の暴力が激しくなってきている。母さんと弟を守ろうと頑張ってはいるものの、体も疲れ切っていてそろそろ限界だったため、助かった。 …父さんが交通事故で亡くなってからだった。兄は母さんのせいだと暴力を振るうようになった。事故の原因が相手側だと言っても聞かないのだ。事故の後に生まれた弟にも暴力を振るうのだ。正直、俺が二人を守らないと母さんも弟も命が無かったと思う。祖父母はもうこの世に居らず、警察も頼ることが出来なかった。何故かって?兄は有名なヤクザ…?とかに入ってるのか後ろ盾が怖いからだとか… 家族を守れるのは俺しかいなかった。母さんは何度も『ごめんなさい』と謝る。もう、聞き飽きる程に…でも、母さんにももうどうすればいいのか分からないのだろう。俺だって分からない… そんな激戦の日々に久々の休日のような日が訪れたのだ。そりゃあ、ぐったりして寝ようとしてしまうのも無理はないだろう。 今は亡き父さんが兄さんの夢枕にでも立って、叱ってくれないだろうか?そんなことを思った日もある。兄は父さんが大好きだったからね。   「……だめだ、変なことばっかり考えてたらゆっくり寝れない……今日はリラックスしていいんだから…」 ベッドに寝転がって、目を瞑った。その時だった。    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 「っ!?」   突然、ベッドが硬くて冷たい床に変わった。そんな感じがして目を開ければ、そこは全く知らないが、少し豪華な雰囲気のする建物の屋内だった。 (…俺はまだ寝てないはず……寝てる間に拐われたって事はないと思うけど…どこだここは!?) 疲れも忘れて飛び起きてしまった。そして辺りを見渡せば、ガウンを着て…あれは…王冠…?を被った男の人が居た。 「…ああ、勇者よ…異界の者よ…どうか我が国を…お救い下さい…」 そう言ったかと思うと、その人は膝から崩れ落ちて床に倒れてしまった。 「ああもう!何が起こったんだよ…あの人、とりあえず楽な姿勢にはさせてあげた方がいいのかな」 とても疲弊している様子のその人をとりあえず、壁にもたれかけさせた。
/29ページ

最初のコメントを投稿しよう!

90人が本棚に入れています
本棚に追加