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「また猫背! 姿勢悪いんだから」
久しぶりの実家、ダイニングテーブルで夕方のニュースを見ているあたしに、母の声が飛ぶ。
「それになんか太ったんじゃない? 姿勢が悪いと老けて見えるし、余計スタイル悪くなるよ」
……母は、相変わらず容赦ない。
大学出て就職一年目。緊張の日々を送っていて、久しぶりの三連休に帰ってみればこんなもんだ。
ネコのみゃーくんまでつれない。昔はあんなに遊んでやったのに。
「ご飯は父さん帰ってきてからにするから、遅くなるよ」と母は言うもんだから、少しすねて散歩に出た。このご時世なので、マスクをして。
これで運動して、やせてやるわぃ。
実家のマンションの目の前は、市内を流れる広い川があり、土手は両側ともランニングコースになっている。
夕暮れ時は、自転車の学生、散歩の老夫婦、犬を連れた人とかで割と往来は多い。空にはところどころ雲があって、たぶん高度や位置が違うからだろう、鮮やかな夕焼け色から地味なグレーまで、取りそろっている。
土手に隣接している公園付近まで夕焼け空を眺めながら歩いていたら、ふいに声をかけられた。
「もしかして、やまちゃん?」
振り向くと、マスクをした女性が立っている。日が沈んで徐々に暗くなってきているが、ギリギリ顔はわかる。ランニングウェア着てて、スタイルいい。だが。
あたしはやまちゃんだが、……えっと誰だろ……。
「ほら、あたしよ」
彼女はちらっとマスクを下にずらした。だが、あまりに速くて、しかも手で良く見えない。
しかし、彼女はこれでわかったでしょ、って感じで続けた。
「遠くから見てそうかなって思ったんよ。去年の同窓会以来じゃねー」
「あーーっ……」(……???)
地元はこれだから困る。
もともと忘れっぽいあたしは、失礼のないよう途中まで話を合わせつつ、脳内検索エンジンをフル回転させて思い出すのが常だ。
去年、同窓会は2つあった。中学校の卒業クラスのと、高校の学年全体のだ。両方出席した…どっちの同窓会だ? 地元だから……中学?
「うえだ先生も相変わらずで楽しかったよねー。二次会行った?」
上田先生! 高校の方だ!!
数学の上田先生と英語の牧村先生の退官が重なって、大学四年生は来年就職だし、学年で集まろうって話になったやつだ。
「あー 二次会、行こうかと思ったけど次の日予定があったから帰ったんよー」
「そうなんだ。同学年みんなで集まるなんてそうそうないからねー、あたしも行きたかったけど、あんまり遅くなるのもって思ってやめたんよ」
同学年みんな、ってことは、やっぱ高校の同窓会で正しい!
しかし、あたしの脳内検索エンジンはまだ高速稼働中だ。さっきちらっと見た顔、どっかで見た気がするが…。声も知ってると思うんだけど。
「あんなにたくさんの人が集まるなんてねー 幹事さんもすごいよね」と彼女が言うから、
「ほんと! 大変だっただろうねー」と合わせた。
っっってことは、幹事ではない。同じクラスとかすごい親しい人でもない。クラブは… あたしはどれも長続きしなかったけど、同じクラブだったって可能性はあるな。この親し気な話しぶりだと。
「あ、今、北校舎改修中って知ってる? すごい寒かったけど、空調も完備するらしいよ。まあ建物自体、古かったしね」
新たな情報、北校舎! 8組か9組の人だ!
学年のうち、2クラスだけ北校舎だったから…。とすると、この人は…。
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