みてるだけの朝。

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「響谷先生、ありがとうございます。数Aだけじゃなく、数Ⅰまで教えていただき、助かりました。」 そう、こんなに時間がかかったのは、数Ⅰも教えてもらったからだ。 「ああ、また滝沢先生がいなかったら、俺のもとにいつでもきなさい。」 「先生、テスト前に時間をとってしまって、ごめんなさい。」 30分くらいの時間をもらおうと思ってた。 響谷先生には申し訳ないことをしてしまった。 「そんなこと気にしなくていいから。テスト頑張りなさい。」 響谷先生が本棚の方に立ち、教材を選んでるように見えた。 教材を一つ取り、パラパラをめくって自分のデスクに置いた。 わたしが響谷先生を目で追っていた。 あそこが響谷先生のデスクか。 響谷先生は私の方に体を向け、デスクに寄りかかる。 「もう6時過ぎだ。寄り道せずに帰りなさい。」 11月下旬、5時過ぎから暗くなり、きっともう真っ暗になってるはず。 「響谷先生、今日はありがとうございました。失礼します。」 私はソファからたち、響谷先生の前に立ち、軽く頭を下げて挨拶をした。 ふいにデスクをみた。 写真立てがある。 私はその写真に目が止まった。 「ん?どうした?」 「あっ!その、写真が。」 先生の写真立てのオーロラがとても綺麗で、目から離せなかった。 「ああ、これな。綺麗だろ?」 「はい、すごく綺麗...。」 デスクに近づき、写真を間近で見る。 曇りない夜空に紫色と緑色のグラデーションのオーロラが幻想的で神秘的だった。 「大学生とき、カナダにオーロラを見に行ったんだ。その時の写真だ。」 すごい、これを生でみたのか。 写真で見るより、実物は私の想像以上の迫力でとても綺麗なんだろう。 「先生が撮った写真ですか?」 「ああ、あまりうまく撮れなかったが。」 先生は苦笑いをする。 「私は綺麗に撮れてると、思います。」 私はこの写真に感動してると思う。 「そうか?」 「...はい。」 先生が少しはにかむ。 「いるか?」 「え?何を?」 「この写真。」 突然のことに戸惑う。 確かに綺麗でいいなーとは思ったけど。 「連れが撮った写真の方がいいのばかりだし、この写真のデータ家にあるから。」 写真立てから写真をぬき、私に渡す。 「はい。あげる。」 「え、あの、いいんですか?」 「ああ。」 オーロラの写真を受け取る。 「響谷先生、ありがとう、ございます。」 嬉しかった。 でもそれは写真をもらったからだけじゃない。響谷先生の顔を見る。 初めて話して、勉強をするまで、響谷先生はほぼ無表情だったが、今は口角が上がっている。この先生、静かに笑うんだ。 この時、私は響谷先生に無意識に釘付けになってしまった。
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