みてるだけの朝。

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ホームルームを終わらせた響谷先生は、私の荷物を持ってきてくれた。 その頃には鼻血も止まり、顔の腫れもおさまってきた。 「先生、荷物ありがとうございます。」 「たいしたころじゃない。さ、いくぞ。たてるか?」 そう言い、響谷先生は私に手首をつかむ。 そして響谷先生の腕に私の手を添える。 まるでエスコートされる体制だった。 緊張が増す。 響谷先生、まるで王子様みたい。 メガネがなくてよかったと改めて感じた。 私は響谷先生の腕を掴みながら、玄関に行き、教員用の車の駐車場に向かった。 そして響谷先生の支えてもらいながら、助手席に座り、学校を出た。 「水無瀬、家はどこだ?」 「えと、住所は...」 私が伝えた住所をナビに入力する。 「最寄り成城駅か?」 「はい。」 「へえ、水無瀬も小田急線沿いなんだ。」 「え?せ、先生も小田急線なんですか?」 響谷先生は同じ小田急線沿いって知ってるが、白々しく聞いてみる。 「ああ、場所は内緒だが、水無瀬と意外と近いところだ。」 私の隣の喜多見駅で、徒歩5分圏内のマンションっていうのも私知ってます。 引っ越してませんよね? 「そうなんだ。町田とかでばったり合うかもしれないですね。」 「町田は広いから難しいだろうな。」 そんなたわいの無い小田急線の話をする。 話をして気を紛らわす。 じゃないと、心臓がもたない。 この狭い空間で二人きりで心臓がずっとバクバクと跳ね上がっていた。 だからどうでもいい話をする。 時間が止まればいいのに。 それかどこか遠いところへ連れてって。 家に帰りたくない。 学校にもどってほしくない。 ずっとこのまま、二人だけの世界で。
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