カラのはら

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「いつものお薬出しておきます。それじゃあ、帰り、お気をつけて」 「はい。失礼します」 過剰に日光が溢れる待合室に戻って、薄いクッションの椅子に体をうずめて目を閉じる。看護師のゆるやかで低い声と、早口の返答が聞こえた。           * ヴヴッ、とポケットの中でスマートフォンが震える。 信号待ちの時間に画面をのぞき込む。同窓会のお知らせというタイトルのメールが、Gメールのアカウントに届いていた。作家として公開しているメールアドレスなのでこちらに来るはずがない。無視しようとスクロールして、幹事の名前を読む。移瀬柑。 「う、う、……うつ、せ、かん……?」 ぱっぽー、と歩みを進める音が響く。反射的に一歩踏み出して、そのまま脊髄の判断に従って歩き続けた。スマートフォンを握る指先の感覚が鈍くなる。 「……馬鹿みたいよ、わたしたち」 悪趣味な裏切りをしたのはわたしからだ。 だから、悪趣味な知らせに欠席と返事することは出来ない。 ごめんと送ったら怒るだろうか。激怒するだろう。謝られるのが、世界で一番嫌いな人だから。 日程は、今日、今から。場所は? いつもの場所。そう、馬鹿なものだから、馬鹿の一つ覚え。駅に向かう。ICカードで、改札のカードリーダーを叩く。 電車は、好きではない。 わたしも、彼も。
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