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「怒ったでしょ」
「だって、連絡先、ぜんぶ消したのはそっちだろ。僕、なにかした?」
「なぁんにも。そもそもみかんがわたしを傷付けて、気付かないはずがないんだよな」
「じゃあ、どうして」
どうして? 曖昧な質問だ。わかっているくせに、と言いたくなる。
裏切ったのはわたしから。
でも、先に背を向けたのは、あなたでしょ。
「どうしてかな」
笑ってしまう。なんだか、昔からまったく変わっていないような、錯覚。変わっていないなんて、そんなはず絶対にないのに。
ないのにね?
「どうしてだろう。わたし、べつに、みかんのこと嫌いじゃないんだよ。今だって」
「僕はさ、」
みかんが、視線をそらした。
「僕は、カラ、君だけには裏切られないと思ってた」
「……それは、ごめん」
「怒るよ」
「うん。でも、それ以外に、なにを言えっていうの」
あなたが、わたしを傷付けて、気付かないはずない。
だから、あなたは、わたしを傷付けたことを誰よりも知っている。
「……そうなんだけど」
「ねー、みかん、なにをわたしに言って欲しいのさ」
わたしから、言うことではないのだけど。駅のホームに電車が滑り込む。マフラーを返そうとしたら、みかんは首を横に振った。
「カラに貸す。なんでそんなに薄着なんだよ。寒がりのくせに」
「べつに……薄着でも、平気だから」
「体冷やすのは良くないだろ」
「ああ……」
彼は勘違いしてる。臙脂色のマフラーを首に巻いて、わたしは笑う。かすかに煙草のにおいがした。
「煙草吸うの」
「ううん。においする? 会社で煙草吸う人がいるからかな」
「ちょっとだけ。大丈夫。ありがとう」
がたん。電車が止まる。立ち上がると、みかんはわたしの右手を引いた。
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