ほくろ

1/1
前へ
/2ページ
次へ

ほくろ

○ ショッピングモール・広場 女性の似顔絵を描いている後藤透(47)。 透「(描き終わり、絵を渡しながら)これで どうでしょう」 女性「素敵ね。いくらだったかしら?」 透「千円です」 女性、千円札を渡す。 透「(受け取って)ありがとうございました」 女性、去って行く。 透、女性を見て、その向こうに話しなが ら歩いている藤林りん(17)と友人に目 がとまる。 その視線に気付くりん。透の横にある『 似顔絵描きます』という看板を見て、こ そこそと話し始める二人。 透の前にりん達がやって来る。 透「(椅子を勧めながら)どうぞ。えっと、 どっちを描けばいいのかな?」 りんの友人「こっちで!」 りん、椅子に座る。 透、りんの顔を見つめ。左目の下のほく ろに注視する。 りん「えっと……どうかしましたか……?」 透「いや、なんでもないよ。じゃあ、描いて いきますね」    ×   ×   × ほくろだけがまだ描かれていない似顔絵。 透、震える右手でほくろを描く。 その様子を訝しげに見ているりん達。 透「えっと……。最後に名前を書いて終わり です。名前は?」 りん「藤林りんです。りんだけでいいです。 あっ、りんは平仮名で」 透、涙を一粒流す。 驚くりん達。 透「あ、ごめんなさい……。りんさんですね。 (名前を書き)どうぞ」 透、りんに似顔絵を渡す。 受け取るりん。 りん、財布を取り出そうとして、 透「ああ、お代はいいですよ」 りん「えっ……でも……」 りんの友人「ラッキーじゃん。いこいこ」 友人、りんの手を引っ張って行く。 りん、頭をペコリと下げ、去って行く。 透、去って行くりんの背中を見つめてい る。 ○ アパート・中(回想) 泣いている藤林鈴(28)。 赤ちゃんのりんを抱いている。左目の下 にはほくろ。 透、一方的にまくし立て、部屋から出て 行く。 ○ ショッピングモール・外・夕方 煙草を吸っている透。 透「(煙草を吹かし)娘からはとれんだろ… …」
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加