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ほくろ
○ ショッピングモール・広場
女性の似顔絵を描いている後藤透(47)。
透「(描き終わり、絵を渡しながら)これで
どうでしょう」
女性「素敵ね。いくらだったかしら?」
透「千円です」
女性、千円札を渡す。
透「(受け取って)ありがとうございました」
女性、去って行く。
透、女性を見て、その向こうに話しなが
ら歩いている藤林りん(17)と友人に目
がとまる。
その視線に気付くりん。透の横にある『
似顔絵描きます』という看板を見て、こ
そこそと話し始める二人。
透の前にりん達がやって来る。
透「(椅子を勧めながら)どうぞ。えっと、
どっちを描けばいいのかな?」
りんの友人「こっちで!」
りん、椅子に座る。
透、りんの顔を見つめ。左目の下のほく
ろに注視する。
りん「えっと……どうかしましたか……?」
透「いや、なんでもないよ。じゃあ、描いて
いきますね」
× × ×
ほくろだけがまだ描かれていない似顔絵。
透、震える右手でほくろを描く。
その様子を訝しげに見ているりん達。
透「えっと……。最後に名前を書いて終わり
です。名前は?」
りん「藤林りんです。りんだけでいいです。
あっ、りんは平仮名で」
透、涙を一粒流す。
驚くりん達。
透「あ、ごめんなさい……。りんさんですね。
(名前を書き)どうぞ」
透、りんに似顔絵を渡す。
受け取るりん。
りん、財布を取り出そうとして、
透「ああ、お代はいいですよ」
りん「えっ……でも……」
りんの友人「ラッキーじゃん。いこいこ」
友人、りんの手を引っ張って行く。
りん、頭をペコリと下げ、去って行く。
透、去って行くりんの背中を見つめてい
る。
○ アパート・中(回想)
泣いている藤林鈴(28)。
赤ちゃんのりんを抱いている。左目の下
にはほくろ。
透、一方的にまくし立て、部屋から出て
行く。
○ ショッピングモール・外・夕方
煙草を吸っている透。
透「(煙草を吹かし)娘からはとれんだろ…
…」
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