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第2話 縁
加納音緒には16歳も年の離れた兄がいる。
見た目が父と似ている兄とは、たまに親子と間違われることもある。実の父、加納上弦には複数の婚姻歴があり、音緒は彼が40の時の子供だった。
音緒は名前から性別が良くわからないが、現在6歳の男の子だ。この春小学一年生になった。可愛らしい容姿と素直さを持つ、周囲から愛される存在だった。
「音緒、眞玄を起こしておいで」
「はあい」
血縁関係のない「祖母」の初音に言われ、音緒は起きてこない兄の部屋に足を向ける。
元々の自宅である加納家は浅草に居を構えていたが、家庭の事情で兄のいる辻家にやって来た。首都圏からは少し離れた、とある県庁所在地。わりとのんびりしている。
家庭を顧みない父が母に愛想を尽かされ、ついでに音緒までもが置いてゆかれた。しかし父が多忙故に音緒の面倒を見られない、という理由から、音緒とは関係のない、父が一番最初に離婚した別の元妻の実家に預けられているという状況は、少し特殊かもしれない。初音と、腹違いの兄である眞玄との三人で暮らしている。
奇妙な家庭だと、傍目には映るだろう。
けれど音緒はあまり気にしない。幼稚園の年中さんの夏休みにこちらへ移ってきて、園も変わり、小学校へ通う今も尚、表札に「辻」と掲げられた玄関をくぐる毎日を過ごしている。
ここに来て大体二年、経過している。
だだっ広い、平屋建ての日本家屋。敷地内に蔵があり、庭は手入れされている。落ち着いた空間。音緒はここが好きだった。
初音が三味線の教室をやっており、生徒さんがたまに出入りしている。音緒も最近教えて貰い始めた。眞玄にも教えて貰いたいところだが、なかなか時間は取れないようだった。
音緒の父も昔、初音に三味線を教わったらしい。結婚し離婚するよりもずっと昔からの繋がりがあるからこそ、音緒は今ここにいる。自分達家族は、三味線の弦によって繋がれていると言っても良かった。
眞玄の実母、馨子はここにはいない。別に家庭を持ち、ほぼ交流はないと言って良い。年賀状が送られてきていたのを音緒も見て、そこで初めて存在を知ったくらいだった。写真もなく無味乾燥な年始の挨拶は、なんとなく寂しい。
だから眞玄も、音緒と同じような境遇と言っても良かった。そのせいか、この家に来てからずっと、彼には溺愛されている。
そんな関係で、音緒はわりとお兄ちゃん子だ。
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