第2話 縁

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「起きてってばー。ばあちゃん朝ごはん用意してるし」 「音緒は……鬼か……眠い」  本当に眠そうに呟いて、起こしている音緒の体を逆にベッドに引っ張り込んだ。 「わあ、何すんだよ」 「んー……抱き心地いいー。音緒可愛い」  ぎゅっと抱き寄せられ、音緒はちょっと困った顔になる。眞玄はスキンシップが大好きで、すぐにこうやってくっついてくる。 「ダメっ、今日は運動会なんだから、早く起きてよ! 眞玄、来てくれるんでしょ」  また眠りに落ちようとしている兄の体を引き剥がそうともがくが、なかなか抜け出すことが出来ない。しかし運動会という言葉が耳に入り、眞玄は再び目を開けた。 「あっ、そうか! 今日運動会だったね。……っしゃ、起きるか」  がばっと起きて、音緒を解放する。大あくびをして、ベッドからだるそうに立ち上がると帯を解き、着替える為に浴衣を脱いだ。惜し気もなく細マッチョの魅惑的な体が朝日に照らされ、音緒はふと「眞玄かっこいいなー」と思った。 「ねっむ……」  シャツとジーンズに着替えると、ベッドサイドに置いたアクセサリー類がごちゃっと入った容器から、バングルとごつい指輪をチョイスして嵌める。全体的なバランスを見ると、なんだかセンスがチャラい。眞玄は自分がチャラく見えるのを気にしているふうだったが、残念なことにそのチャラさ加減が似合っていた。  元々の顔の作りが軽薄そうな軟派男に見える為なのか、世間的に見た目通りの男として認識されている。しかし傍にいて見ている音緒からしてみれば、けしてそんなことはなかった。兄は誤解されやすい。  着替えを済ませた眞玄のあとをとことこついてゆき、一緒に洗面所に向かう。顔を整え歯磨きをしている傍で、音緒は話しかける。 「今日ねー、僕かけっこ頑張るから。予行演習では、コウくんに勝ったんだよ。でも二番だったの」 「うん、頑張れ。音緒はやれば出来る子だもんね。転んでも、泣かないで」  コウくんが誰だか眞玄は知らなかったが、恐らく同じ学校の友達か何かだろう。 「泣かないよ。一番になれるといいなー」 「そうだねえ。応援してるからね。きっとばあちゃん、おいしいお弁当作ってくれたよ。一緒に昼飯食おうな」 「うん」  少し寝癖のついていた髪も綺麗に整えて、仕上げにメンズ用の香水をつけて身仕度完了。眞玄はいつも良い匂いがする。きつくはない、気にならない程度の匂いだ。 「僕もつけたいー」 「子供は、駄目。大人になったら」 「大人って、何歳?」 「んー、何歳と言われると難しいね。とりあえずちん×んに毛が生えるまでは、駄目」 「ええーっ」  変なことを言われて、音緒は思わず自分のズボンの中を覗く。いくら覗いてみても、つるんとした肌が見えるだけだった。 「ほら、音緒。朝ごはんなんだろ。行こ」 「はあい」  運動会を開催するには丁度良い、五月晴れだった。
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