第21話 蝕

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 戸惑いを含んだ声音に、弓都は少し話を逸らして、ふと思ったことを口にする。 「無味乾燥な感じですねえ。みつるくんは達筆だから、そんな電子機器でのやり取りより、実際筆を執った方が良い。たまには僕に、近況でもなんでも送ってください」 「は? 俺の近況なんて、つまらんし」 「なんでも、いいんですよ」 「……わかった」  なんとなく弓都の人恋しさを悟ったのか、上弦が曖昧に頷いたので話を筋に戻した。 「で、その子は誰くんですか?」 「あぁ……征、って言う」 「征くんね。はい。覚えました。……で、あなたはどう思ってるんです?」  少し間があった。 「おや、まんざらでもない?」 「そうじゃねえよ。俺はてめえのガキと同世代の野郎とどうこうする気はまるでない」 「そんなこと言って、数年前若い女性と結婚していたじゃありませんか」 「夏織子な……順を追って話すわ」  煙草の灰を灰皿に落としながら、上弦は苦虫を潰したような顔をする。  今は離婚してしまったが、数年前に三度目の結婚をすると聞かされた時は、どれだけ一人の女と続かない男なのだろうと弓都は少々呆れた。  呆れたが、仕方のないことでもあった。  上弦が、誰のことも愛していないのは知っていた。それなのに結婚するその精神力には、呆れると同時に感心する。 「カオルコさんばかりを選んで結婚するのは、何故ですか? 名前を呼び間違えることがないから?」 「それ、正解」 「失礼な男ですね、みつるくんは」 「いや、名前間違ってえらく反感買ったことがあったもんで、もういいや、全部カオルコにしちまえって、そんだけ」 「名前だけで、相手の人格を見てないんですか?」 「耳が痛ぇやね」 「――一番最初の馨子さんを、忘れられないということは?」  淡々と指摘した弓都に、上弦は胡乱な視線を向けた。思いもよらないといった感じだったが、実際には単に自分で理解していないだけなのだろう。 「さあね。どうなんだか。……ただ、俺は。恋愛感情がないってだけで、俺の子産んでくれた馨子には感謝してる。それは音緒の母親の夏織子にしてもそうだ」 「家族の情、ですか?」 「んまあ、そんなもんかね……実は俺自身よくわかってない。平気で仕事優先で、辻先生に預けてよ。恨まれても仕方ない」 「なんかぼろぼろ出てきますね。相当溜め込んでました?」 「さぁて……」  短くなった煙草を揉み消して、上弦は縁側から部屋の中に上がり込んだ。先ほど弓都が餌をやっていた赤い蘭鋳(らんちゅう)に水の上から手を翳すと、貰った餌が足りなかったのか、ぱくぱくと丸く口を開ける。その様子に上弦は小さく笑い、ふと思い出したように会話を再開した。
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