第21話 蝕

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「昔、俺は……自分の半分がどこかにあるのかと、思ってたことがあった」 「――はあ」 「辻先生が俺に『上弦』と付けてくれたろう。上弦てのは、半分の月だよな」 「そうですね」 「弓都さんが、その半分だったらと、思ったことがある。まあ、『ことがある』というだけの話だがよ」  なんとなく失礼なことを口にしている上弦に、苦笑いが漏れる。  いきなり何を言い出すのだろうか。 「言葉遊びだと思って聞いてくれて良いんだが、弓都さんの弓は、半分の月だろ」 「は……あ。弓張月(ゆみはりづき)のことでしょうか」  弓張月は、弦月のことだ。いつそんなことを考えていたのだろうかと、弓都はなんだか落ち着かない気持ちになった。  当の上弦は、深い意味もないように、落ち着いている。 「言葉遊びで返してあげましょうか」 「……ん?」 「みつるくんは『()つる』に通ずるから、半分も何も、ありません」 「はは、考えたこともなかった」  紙に書かれたわけではない為に少し考えたようだったが、イントネーションで理解したようだった。 「だから半分を探さなくて、良いんですよ」  声音に寂しさが混じった。  上弦がどう取るのかはわからなかった。 「弓都さん……長生きしてくれよな。俺が愚痴こぼす相手、あんたくらいなんだ。俺のことみつるって呼ぶのも、そうはいなくなった」  ぽつりと言った上弦の言葉が、なんだかとても大切なものに思えた。  弓都の母が亡くなった年齢はとうに過ぎていたが、同じく長生きは出来ないのだろう。  言葉を返そうとしたが、なんとなく喉が詰まって、返せなかった。  話しているうちに夕食の時間になり、通いのヘルパーさんが作ってくれた食事を二人で食べた。体のことを考えて作った食事は、全体的に味が薄く、上弦の顔はなんとなく物足りない印象だ。 「さっきの話の続きがあるんだがよ……弓都さん、弟子を取る気はねぇか。弟子ってか、堅苦しく考えなくて良いんだけどな」 「続きと言うには、また唐突な。僕はもう舞台にも上がっていませんし」 「だからだよ。自宅に引きこもってくさくさしてたんじゃ、体が鈍るだろ?」  上弦の言わんとしていることもわからないではない。ただ話の流れが良く見えなくて、弓都の箸が止まる。 「実はなあ……さっきの征が、弟子に云々はさっき言ったよな。でな、距離的な意味も含めて辻先生でも紹介しようと思ったんだが、たまにで良いから通わせてくれと、食い下がる」 「……それは、あなたに対してでしょう?」 「まあまあ」  ますます話の流れが読めない。弓都の眉が不審に歪む。
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