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    ◇  ◇  ◇ 「ねー、航ちゃん。これ、ちょっとわかんないんだけど。教えてもらえる?」  義兄の部屋を訪ねた雪音は、テキストを開いて質問する。 「どれ? あー、これ確かにパッと見はややこしく感じるんだよな。でも、一つ一つ丁寧に考えて行けば大丈夫、絶対解けるから」 「んー、こう、かな?」  航大の説明に、首を捻りながらもどうにか問題を解いた。 「そうそう、以前よりかなり飲み込みよくなったな。雪は来年受験だろ? もうちょっとだから頑張れよ」  励ましてくれる彼にも、自信なさ気な声が漏れた。 「そうなんだよ。もう高二だし、あと一年ちょっとしかないんだよね。……俺、ホントに大丈夫なのかな」 「気を抜かずに真面目にやってれば、雪なら大丈夫だって」  雪音は実のところ結構勉強ができる方ではあるのだが、航大は特別優秀なので比べる気にもならない。  何もわかっていなかった幼い頃は「航ちゃんとおんなじ学校行く!」と無邪気に口にできていた。  しかし航大と同じレベルを目指すのは到底無理だと中学の頃にはもう理解していた。  義兄の在籍する大学を知る教師も、そんな無謀なことは口にもしない。  そもそも両親は、航大にも雪音にも進路に関して本人の意思をまず尊重してくれていた。「いい大学へ行け」と強要するようなことは一切ないのだ。  雪音なりに自分に合った志望校を定めて合格できるよう努力はしているが、模試の判定などを見ても余裕と言えるほどの状況ではない。  そのため、どうしても不安が拭えなかった。  とりあえず引っ掛かっていた問題をすべて片付けて、一気に脱力した雪音は義兄のベッドに身体を投げ出す。
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