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「あ、航ちゃん!」  改札を出て来た雪音が、航大の姿を見つけて嬉しそうに駆け寄って来た。 「おかえり。塾の予定変わったんだって? そういうのはちゃんと教えてくれよ」 「あ! そうか、言ってなかったっけ。ゴメン」  航大の苦言に、彼ははっとしたように返して来る。 「……でもさぁ、毎回迎えに来てくれなくていいよ。家まで近いし、航ちゃんだって大変じゃない?」  内容としては義母と同じ台詞だ。  一般的にはごく普通の思考だろう。  移動に支障を伴うわけでもない健康な男子高校生が、多少帰宅が遅くなるからといちいち駅まで迎えに出向くなど、失笑の対象であっても不思議はない。  けれど今までにも繰り返された問答に、航大の答えは変わることはなかった。 「いや、別に。週に三回か四回だろ? どうってことないよ。それこそ近いんだし」 「そうかなあ。でも、ありがとう」  何でもないように告げる航大に、雪音は申し訳なさそうな様子で礼を述べる。  航大が少し低い位置にある義弟の顔に目をやると、歩く拍子に前髪が揺れて額に横一本に走る微かな痕が見えた。  ……傷痕があまり目立たなくてよかった、と思うべきだろうか。  雪音には前髪を下ろしたスタイルの方が似合うとは思うけれど、もししたくても上げたり分けたりはできないのだ。
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