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 小学生のころ、プール授業で帽子を被ると完全に額を出すことになり、悪気無く傷のことを訊かれることもよくあったらしい。  二年生の時に包帯を巻いていたのを知っている子も多いので、本当に純粋な興味だったのだろう。  子どもは素直で、ある意味残酷だ。見たまま、感じたままを平然と口に出す。  それは必ずしも悪いとは言えない。訊かれなければ説明することも、必要があれば否定することもできない場合もあるからだ。  雪音が特に気にしているようでもなかったのが救いではあるものの、もしかしたら心の中は違ったのかもしれない。  それについては、本人が言わない限り航大も両親も触れることはできなかった。  強引に訊き出して「本当は辛い、嫌だ」と感じているとわかったとしても、完全に痕を消してやることは不可能だからだ。  その場合、ただ悪戯に雪音を苦しめることになってしまいかねない。  帰りが遅くなったら迎えに行くのも、義弟に告げた通り航大はまったく負担に感じてなどいなかった。  帰宅途中に前を通るマンションの敷地内の植栽に隠れて、雪音を狙う人間がいるかもしれない。  実際に、しばらく前にも近所で子どもに声を掛けたり中学生や高校生を追いかけたりする不審者が出たそうだ。  地域コミュニティを通じて注意喚起する知らせが回って来たと義母が顔を顰めていた。
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