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雪音に万が一のことがあったら悔やんでも悔やみきれない。
「なぜあの時少しの手間を惜しんだのか」と一生苦しむことになるくらいなら、往復二十分足らずの道程などなんということもないのだ。
身体の傷もだが、それ以上に心の傷も心配だった。
──もう二度と、雪の涙を見る羽目にはならないように。どんなことでも。
緒方家が以前に住んでいたマンションは2LDKだったので、一部屋は両親の寝室、もう一部屋を子ども二人の部屋として使っていたのだ。
ごく一般的な広さの洋室に二段ベッドと勉強机を二つ入れて本棚を置くと床にはほとんど空きスペースがないような状態だった。
しかし物理的にも他の方法はなかったので仕方がない。
ただ航大も雪音も小さい頃は特に、二段ベッドが秘密基地のようで結構楽しかった覚えがある。
それをわかっている親がそれぞれのベッドにライトをつけてくれたので、勉強以外はわざわざ二段ベッドの自分のスペースにいることも多かった。
そう、あのときも。
雪音の『事故』は、家庭内では今は一種の笑い話として話せるくらいにはなっていた。深刻な後遺症なり、目立つ傷が残らなかったからこそではあるものの、航大には今でもただの悔恨を伴う痛みでしかない。
表面的に合わせてはいても、どうしても笑い飛ばせなかった。
あの雪音の血、涙。
生々しい暗い赤と、透明な雫のコントラストが、航大の脳裏から消える日はきっと来ない。
哀しく、痛々しい、……どこか背徳的で美しいあの光景が。
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