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 金曜日の今日は、両親は二人で結婚記念日のディナーに都心のホテルにお出掛けだ。  仕事帰りに待ち合わせて直接向かい、そのまま泊まって来るらしい。  正確には記念日は今日ではないのだが、二人とも働いているため当日は無理だったのでずらしたそうだ。  再婚家庭の事情などそれこそ千差万別だろうが、航大と雪音の親の場合はどちらも子連れということを勘案したのか結婚式もしていない。  一応は四人でお洒落して写真館で家族写真を撮り、その帰り道に小さな子が一緒でも行けるごく庶民的なレストランで食事しただけだった。  その時の写真は、今も両親の寝室の壁に飾られている。  結婚して数年は雪音がまだ保育園で送り迎え必須のため、時間に追われる慌ただしい日々を送っていた。  小学校に上がってからも、両親ともが子どもだけで留守番をさせるのに抵抗があると言って結婚記念日といえどせいぜい家で少し豪華な夕食を取るくらいだったのだ。  雪音が中学生になりこの家に越してきてから、ようやく二人で夜出かける心の余裕もできたようだ。  以来毎年この時期になると記念の食事には出掛けていたが、両親が二人だけで外泊するのは初めてのことだ。  義母が職場で宿泊補助券をもらったのだとか。 「パパとママだけご馳走じゃ申し訳ないから、航ちゃんと雪ちゃんも何でも好きなもの食べていいわよ~」  彼女がそう言って、お金を置いて行ってくれた。  航大と雪音は二人で話した結果、高級というほどではないが普段自腹ではなかなか行けない近所のイタリアンの店を選んだ。
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