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「コース頼んでいい!?」
「夜はコースが基本だろ。アラカルトの方がイレギュラーじゃないか? コースに一品足すとかって感じでさ」
店に向かう道中から嬉しそうな雪音を微笑ましく見やり、航大も笑顔で告げた。
店内の黒板には、仕入れ状況などから日毎に変わる「おすすめメニュー」が記載されている。
「航ちゃん、なんか飲む? フェアでグラスワインお得だって!」
「いや。一人で飲んだって美味くもなんともないだろ」
コースの中で選択肢のあるパスタや魚、肉料理から頼むものを決めた後、他のメニューに目を走らせていた雪音が問うのに当然のように返す。
「ああ、でもそうだな。お前が二十歳になったらこういう店で乾杯しようか」
「えー! それ楽しみ! まあまだだいぶ先だけどさあ」
ささやかで温かい「家族」の時間。
航大が幸せを感じる、何に変えても守りたい大切なもの。
「美味しかったね! あのお店、夜に行ったの久し振りじゃない? お昼のランチはみんなでたまに行くけどさ」
食事を済ませて店をあとにする。
義弟が跳ねるように歩きながら話すのを、すぐ傍らで見守った。
「そうだな、やっぱあの店美味いよな」
「しょっちゅう行けないから余計に美味しく感じるのかもね」
それはそうかもな、と同調する航大に雪音が笑う。
「ランチはリーズナブルだけど、夜は価格的にもちょっと学生が気軽に行く感じじゃないし、どうしても家族で行くことになるからな。そんな格式張った店じゃないから、俺たちだけで行っても今日みたいに普通に受け入れてくれるけどさ」
「そこがいいんだよ。いいお店なのに偉ぶってないっていうか」
航大が話すのにも、義弟は嬉しそうに頷いて答えた。
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