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「ここに引っ越してきて開拓した中で、近場では一番美味いんじゃないか? あ、ご馳走的な意味で」
「俺もそう思う。普段のラーメンとか定食の美味しいとこもいっぱいあるけど、ちょっと特別って時はやっぱりあのお店かな」
味覚が合ってよかった、と二人で顔を見合わせる。
「お父さんとお母さんの結婚記念日で、なんで俺たちが特別なんだよってのはあるけど」
雪音の言葉の意味はわかるが、同意はできない。
「いや、でも結婚記念日と誕生日は個人より家族で祝うのでもいいんじゃないか? 子どもだけで、ってのは確かにヘンかもしれないけどさ」
特に航大たちの家は互いに子連れで始まった家庭だ。
両親の「結婚記念日」は、即ち「家族になった記念日」でもあった。
他所の家がどうしているのかは知らないし、知りたいとも感じない。これが自分たちの、「緒方家」の習慣だ。
「あー、そういえばお父さんとお母さんが外に行くようになる前は結婚記念日は必ず四人でお祝いしてたけど、何故か俺たちの好きなもの作ってもらったりケーキ食べたりしてたもんね」
並んで歩きながら取り留めない話を続ける、こんな時間が楽しい。今日は何度、こういう気分を味わっただろう。
……そんな風に感じる己は、果たして「普通」なのだろうか。
「俺『たち』っていうより雪のな。俺は訊かれてもリクエストしたことないから。さらっと巻き込むなよ」
「えー、航ちゃん細かい!」
お喋りは途切れることなく、寄り道もせずに家まで帰って来て二人は順に入浴も済ませた。
まだ寝るには早い時間なので、それぞれ好きに過ごすことにする。雪音は試験に向けて勉強する、と自室に消えた。
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