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「こら、寝るなら自分の部屋で寝ろよ」
彼の咎める声にも、すぐには起き上がれなかった。
倦怠感もあるが、何より本気で怒っているわけではないくらいわかるので聞く気がないのもある。義兄に甘えている自覚はもちろんあったが、「兄弟」なのだから他人行儀な遠慮など不要のはず。
都合のいい言い訳で誤魔化して、雪音はそのまま彼のベッドから動く気はなかった。
「わかってる~」
「そんなこと言ってこの間もそのまま寝ただろ。俺が雪の部屋で寝る羽目になったんだからな」
つかつかと歩いて来た航大がベッドに手をついて、雪音に覆い被さるようにして文句をつける。
「あー、ごめーん。でも今日は大丈夫だから、ちょっとだけ。頭使って疲れちゃったんだよ」
「……」
無言の義兄。もしかして今日は本気で怒らせてしまったのか。
少し調子に乗り過ぎたかもしれない。起き上がろうとしたが、今度は逆に航大の身体に阻まれる形になってしまう。
「航ちゃん?」
きょとんとした表情で見上げる雪音に、航大は一瞬目を泳がせ躊躇ったように見えた。
……しかし止まることなく、そのまま見下ろしていた雪音の上に乗り上げながら抱き締めて来る。
「こ、ちゃ、……!」
何か言いかけたその口元を唇で塞がれた。
雪音の後頭部を抱えるように回した掌に力が入る。
突然のキスに驚き過ぎて硬直していた雪音が、そろそろと両手を義兄の背中に回した瞬間、彼がまるで雪音を突き放すかのように身を離した。
──何!? いまのは、いったいなんだった?
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