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「……こう、ちゃ」
「ゴメン!」
雪音に何も言わせまいとするように、航大が目を逸らしたまま謝罪の言葉を繰り返す。
「ゴメン、雪。俺、……俺、どうか、してた」
「航ちゃん、俺は──」
ようやく口を開いた雪音に、義兄は言葉を被せた。
「雪、出てってくれるか? 部屋に戻って」
ベッドの端に腰掛けて雪音に背中を向けたままの姿勢で、航大は全身で拒絶する空気を醸し出している。
雪音はそれ以上何も言えずにのろのろと起き上がり、ベッドを降りてドアを開け部屋の外に出た。
自分の部屋のドアを開けて中に滑り込むのがやっとで、ベッドまで辿り着くこともできずに雪音はその場に座り込む。
頭の中では、航大の抱擁とキスと、そのあとの冷たい彼の声と背中の残像がぐるぐると回っていた。
ごく間近で見た義兄の顔。まっすぐ見据えてくるその瞳は、近すぎて焦点が合わなかった。
航大の力強い腕の感触が、今も雪音の身体から立ち去ってくれない。
……いや、きっと忘れたくないと感じているからではないのか。他の誰でもない、雪音自身が。
「……航、ちゃん」
ようやく零れた声に時間が動き出し、雪音は何とか立ち上がってベッドに倒れ込んだ。
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