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「就職したら当然家は出るんだろうなと思ってたけど、航ちゃん進学するから早くても二年以上先だと思ってたのに。急で驚いたわ」
何も考えられない状態の雪音は、何とか母との話を切り上げて自分の部屋に向かった。
義兄がいなくなる。この家を出て行く。
……雪音から離れて行ってしまう。
ベッドに寝転んで天井をぼんやり見つめていた雪音は、玄関の開く音に飛び起きてドアを開ける。
部屋から廊下に出たところで、雪音は帰って来たばかりの航大を迎える格好になった。
「航ちゃん、家出るってホント?」
「……ホント。お母さんに聞いた?」
前置きなく訊いた雪音に、義兄が仕方なさそうに答える。
「うん。なんで俺に教えてくれなかったの?」
何よりもそれが気になった。
家を出ること自体よりも、何故教えてくれなかったのか。自分はこの義兄にとってその程度の存在でしかないのか、と。
「出て行くときに嫌でもわかるだろ」
「航ちゃん!」
投げやりにも聞こえる航大の言葉に、思わず声が大きくなった。
「悪い、雪。俺、ちょっと実験立て込んで疲れてて。明日も早いから風呂入ってすぐ寝たいんだ。……こういうことがこれからもっと増えるから、いちいちここまで帰って来るのが結構負担なんだよ」
言うなり彼は、雪音の返事も確かめずにさっさと自室に向かう。
雪音はただ呆然として、その後姿を見送るしかできなかった。
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