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《航ちゃん、住所教えて。》  今日、改めて雪音が送ったメッセージには、既読はついたが返信は来なかった。  ──なんで? 航ちゃん、住所くらいなんで教えてくれないの? そんなに俺と距離置きたいってこと? ……後悔、してるから?  航大とそのことについて話してからほんの半月足らず。  あっという間に部屋を決めて契約を済ませ、最低限の家電だけ買って義兄はこの家から出て行った。 「住所教えてね」  別れの日、見送る雪音の言葉に航大は曖昧に笑って何も答えてはくれなかった。  両親も傍にいたから、はっきり言葉に出して断ることもできなかったのだろうか。  通信アプリのIDはそのままなので連絡を取ること自体はできるけれど、明らかにやり取りの頻度は下がった。  というより、航大からのメッセージはまったく来なくなったのだ。  雪音のメッセージに一応返信はしてくれるが、文面にもいかにも型通りというか他人行儀な空気が漂っていた。  ただ住所を知りたいだけなら、親に訊けばいいのはわかっている。義兄はまだ学生で、義父が保証人になっているからだ。  しかし、雪音はそうはしなかった。  それでは意味がない。航大が自分から教えてくれるのでなければ、住所だけわかっていても会いに行くことはできないのだから。  それはただ、無理矢理押し掛けるに等しい。  ふと気づくと、部屋で机に向かっていても、彼のことを考えてぼんやりしていることが増えた。  こんなことではいけない、と頭ではわかっているのに、自分ではどうしようもない。  ──勉強、しないと。まだ受験生じゃないけど、今から頑張らないと俺は航ちゃんとは違うんだから、ホントに大学行けなくなっちゃう。
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