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 もう九年も前になる。 「ねー、航ちゃん。あれ見せて」  夕食後子ども部屋で過ごしていた航大に、リビングでテレビアニメを観終わって部屋に入って来た雪音が強請(ねだ)る。  彼のお目当ては、アンモナイトの化石だ。  両親が結婚してすぐ、新しい『家族』で休日に出掛けた博物館。  普段は何か買ってと口にすることさえほとんどない航大が珍しく欲しくて、しかし結構高価だったため言い出せなかったのを義母が気づいて買ってくれたものだった。  あれから三年が経ち、航大は中学生になっていた。  今は化石そのものにはそれほど興味はなくなったものの、航大の『宝物』には変わりがない。  本棚の一番上段を空けて、そこに博物館で買った時のケースのまま大切に飾ってあった。 「……あー、うん。あとで、な」  二段ベッドの上段の自分の陣地でゲームに夢中だった航大は、雪音の問いにも画面から目を離すこともなくおざなりに答える。 「じゃあ、自分で取ってもいい?」 「んー、いいよ」  義弟の言葉に、航大は相変わらず上の空で適当に返した。  航大がそれを大事にしていることをよく知っている雪音は、見せてもらっても決して雑に扱うことはないのでその点では心配などしていなかったからだ。  直後、何かが倒れる大きな音と同時に、雪音の激しい泣き声が聞こえて、航大は驚いてそちらに目を向けた。
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