【1】

6/8
前へ
/59ページ
次へ
 両親の寝室のベッドに寝かせると、雪音は疲れからかあっという間に寝息を立て始める。  一息ついたかと思ったところで玄関ドアが開く音がした。  航大が義母と一緒に寝室を出た途端、慌てふためいた様子で帰宅した父と顔を合わせる。  義弟が眠るすぐ傍の廊下で騒ぐわけには行かないので、涼音が無言で合図するのに従い三人でリビングに移動した。 「ママ、雪ちゃんは?」 「今、ちょうど寝かせたところ。狭くて悪いけど、パパ今日は雪ちゃんの二段ベッドで寝てくれる? 二十四時間は気をつけるように言われてるから、今夜は私がずっと起きて見てることにする」  連絡を受けていたのだろう父が訊くのに、義母が落ち着いて答えた。 「それは構わないけど。……航大、お前が一緒に居たんだろ? なんでこんな──」  父の怒りを理不尽だとは感じなかった。  そう、自分のせいだ。もう少し、本当に僅かにでも気を配っていれば……。 「大声出さないで! 雪ちゃんが起きるでしょ」  けれど、思わずといった調子で声を荒げた父を義母が制する。 「あ、ごめん。でも、航大は」 「航ちゃんのせいじゃないわ。キャスター付きの椅子に立って乗る雪ちゃんが悪いのよ」  涼音は航大に気を遣って(かば)っているわけではなく、本心からそう思っているのだろう。  彼女は普段から、もちろん努力してそうしている部分もあるのだろうが、航大にも実の子である雪音と同じように接してくれていた。  そして父の方も、妻へのポーズで航大を責める素振りをしているわけではなく心から雪音を心配している。  彼は本当に雪音を可愛がっているのだ。  ──お母さんはそう言うけど、やっぱり俺が悪いんだ。俺がゲームしててあんないい加減な返事しなきゃ、雪ちゃんだって椅子に乗ったりしなかったんだから。
/59ページ

最初のコメントを投稿しよう!

94人が本棚に入れています
本棚に追加