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 翌日は、大事を取って雪音は学校を休み、義母も仕事を休んで傍についていた。  航大も義弟が心配で堪らず休むと言ったが、その申し出は当然却下され仕方なく登校したのだ。 「航ちゃん、おかえり! ねー、化石。化石こわれてなかった?」  何よりもそれが気になっていたらしく、航大の帰りを待ち構えていた雪音が飛びつくようにして訊いて来る。  彼の身長では定位置のアンモナイトの存在はどうにか窺えても、欠けたりしていないかまで確かめることはできないだろう。  だからと言って、昨日の今日で椅子に乗って覗いてみようとするほど雪音は考えなしではない。  もし壊れていたら、と不安で母に問うこともできなかったのではないか。 「壊れてないよ。ちゃんとケースに入ってるから、落ちてもそれだけで壊れたりしないって」  もし壊れていたとしても、いくら「宝物」とはいえ雪音を思えばどうでもいいというのが偽りのない気持ちだった。  しかしそのまま口にすれば義弟は気に病むだろう。実際に重量も軽く丈夫なため、化石にはなんのダメージもなかった。 「ホント? よかった~」  航大の言葉を聞いて安堵の溜め息を吐く彼に、思い切って切り出した。 「雪ちゃん、あのアンモナイト、欲しかったらあげようか?」 「いい! いらない! だって、航ちゃんの大事な化石でしょ? たまに見せてもらったらそれでいい。もう絶対、勝手にさわろうなんてしないから、ごめんなさい」  ぶんぶんと音が鳴るほどに首を左右に振って、雪音は全身で否定する。 「雪ちゃん、頭振っちゃダメだよ! ……わかった。でも、もし欲しくなったら言って」  航大の言葉に、今度は義弟も静かに頷いた。
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