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 様子を見ていて特に変わったこともなかったため、雪音は一日休んだだけで登校するようになっていた。  特別やんちゃというわけではなく、雪音はむしろ周りの子を見ていてもおとなしい方に分類されるのかもしれない。  それでも元気な小学生男子にはやはり頭の包帯は邪魔らしかった。  もう出血もなく、痛みも感じないなら余計にそうだろう。 「雪ちゃん、包帯解けてる。巻き直そう」 「えー、もういいよ。取っちゃダメかな」  学校から帰って来た航大の声掛けに、彼は煩わしそうに答える。 「ダメに決まってるだろ! 一週間後にまた来なさい、って先生言ってたじゃん。だからそれまでは巻いてないと。ばい菌入ったら大変だからさ」  諭すような航大に、渋々ながらも義弟は頷いた。 「めんどくさいなー、じゃあ航ちゃんお願い。……早く治らないかなぁ」  包帯を巻き直しながら、航大は雪音の世話を焼くのが嫌ではない、それどころかもっと構ってやりたいと感じている自分に気づいた。  可愛い義弟。  普段の笑顔も、今の少し不貞腐れた表情も変わらず愛しい。 「本当に航ちゃんが気にすることなんてなにもないのよ。もし誰かが悪い、って言うならママ()だわ。同じ家の中にいたんだし、母親なんだから」  義母の主張は、世間一般的にはきっと正しい。いや、それでも彼女に責任などないと思ってはいるけれども。  万が一逆の立場なら、航大は誰も恨んだりはしないだろう。自分を恥じて家族に申し訳ないと考えることはあっても。  しかし、理屈で割り切れることではないのだ。航大がきちんと向き合ってさえいれば、あんなことにはならなかった。  如何にも「泣き虫」のようでいて、まず涙など見せることはない雪音。あの涙も、血も、傷跡も、何もかも自分の安易な選択の結果でしかないと悔いている。  もう二度と彼を泣かせたくはなかった。  ましてや航大のための涙など、決して流させはしない。
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