第8話『反抗期再来?』

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午前中は、いつも通り、リョウと共に図書館で読書をしている。 だが、いつもと違う。今日は夜遅くまでオランに会えないのだ。 そう思うと、読書に身が入らない。 アヤメは本のページをめくるのも忘れて、溜め息だけをついた。 それに気付いたリョウが、隣に座るアヤメを心配そうにして見た。 「お姉ちゃん、どうしたの?」 「オランお兄ちゃんがね、お仕事で忙しくて会えないの」 「お兄ちゃんに会いたいの?」 「うん。会いたいよ……」 アヤメがそう本音を漏らすと、リョウはニッコリと笑った。 「ハイ、お姉ちゃん」 リョウは、片手をアヤメに差し出した。 小さな手を開いて、『手を乗せて』と催促している。 アヤメは、ハッとした。これは………少し前に見た事がある。 リョウの手に触れると、望んだ場所に一瞬で移動する『空間移動』の魔法が発動される。 きっとリョウは今回も、アヤメをオランの元へと行かせてあげようと思ったのだ。 だが、今回は冷静に考えてみる。 「リョウくん、オランが今どこに居るか、知ってる?」 「知らなーい」 アヤメは不安になった。オランの行き先も不明なのに、正確に辿り着く事が出来るのだろうか。 それに、『来るな』と言われたのに勝手に行ったら、オランは怒るだろう。 (でも、『行き来する』のが危険って言ってたし、一瞬で行けるなら問題ないのかも?) アヤメは都合良く解釈した。 言われた通りに従えない『反抗期』が続いている事も、その考えを助長した。 オランに会いたい。その一心で…… アヤメは、リョウの手の平に自分の手の平を重ねた。 すると、アヤメの体が光に包まれた。 ドサッ!! 『空間移動』の魔法で移動すると、目的地の床よりも少し高い位置に繋がるらしい。 アヤメは上手く着地できず、地面に尻餅をついた。 足元を見ると、ここは室内の床ではなく、地面の土だった。 次に顔を上げて、辺りを見回す。周囲には木々しかない。 ここは、どうやら森の中。 アヤメはたった一人、森の静寂の中で座り込んでいた。 だが、この場所は見覚えがある。 木の形、配置、流れすらも、全てが幼い頃からの記憶の通りだった。 ここは人間界。アヤメが生まれ育った村の近くにある森だ。 そして……アヤメが、オランと出会った場所。 (え……なんで!?) アヤメは立ち上がって愕然とする。 オランの元へ行きたいと思ったのに、何故ここに来てしまったのか? リョウの『空間移動』の魔法は完璧ではない。 不明確な行き先を目的地にした為、その力は正しく発動されなかった。 結果、アヤメの記憶の中で『最も印象深い場所』に辿り着いたのだ。 その時、近くの木々の奥から、何か大きな物が倒れるような物音がした。 アヤメは驚いて、その音がした方の木に歩み寄る。 木々の隙間から、そっと奥の様子を覗いた。 そこに見えたのは……見慣れない子供、男の子の姿だった。 だが、何か様子がおかしい。 その子供は、地面にある何かに手を伸ばしているようだった。 その子供の視線と手の先を見ると、地面に誰かが倒れている。大人の男性だ。 アヤメは、その男性に見覚えがある。同じ村の住民だ。 子供は、仰向けに倒れた男性の胸に手を突き刺し、何か丸い物を取り出したように見えた。 (えっ……!?) 目の前の光景に、アヤメは恐怖のあまり息を呑んだ。 (人の心臓を……取り出した!?) すると子供は、その手に収まるほどの小さな球体に……かじりついたのだ。 それは、まるでリンゴを丸かじりするような仕草だった。 (心臓を……食べてる!?) アヤメの目に映る少年は、まさしく妖怪……いや、人の内蔵を食べる化け物だろう。 よく見ると、子供が手に持っている心臓のような球体は、発光している。 もう片方の手には、大きな鎌のような刃物を持っている。 人を斬って心臓を取り出したにしては、刃物も手も血で汚れていない。 アヤメは思い出した。図書館の本で知った、あの種族の事を。 (死神……!!) 子供が食べているのは心臓ではなく、人間の魂なのだろう。 人の魂を狩って喰らう『死神』に違いない。 目の前の子供は、見た目は10歳ほどの少年。 銀色の髪に、紫の瞳。誰も寄せ付けない程に冷たく鋭い眼光。 だが、その顔立ちは背筋が凍る程に美しく、大人でも魅入られてしまうだろう。 大人が持つような大きな鎌を持ったその姿は、小さな子供にはアンバランスだ。 少年は魂を一口かじっただけで、その手を止めた。 そして、眉をひそめ不満そうに呟いた。 「不味いな。こんなモン食えねぇ」 そして、少年はそのまま、アヤメの隠れる木々の方に視線を向けた。 アヤメは驚きと恐怖で、瞬時に息を止めた。 ここに居る事に、すでに気付かれている。 「なに見てんだよ、お前」 紫色の鋭い眼光に怯んだアヤメは何も出来ずに……その場に立ち尽くしていた。 人間界の森の奥深くで、少女と魔王は出会った。 そして、今また同じ場所で……少女と死神は出会った。
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