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「なんだ、どうした、アヤメ!?」
「なに、どうしたの、お姉ちゃん!?」
オランとリョウが、鏡の前で立ち尽くすアヤメの背中に駆け寄る。
着替えの途中だったアヤメは、肩から胸元まで肌を露出させている。
それに気付いたオランは振り返ると、リョウに向かって叫んだ。
「待て、ガキは来るな!!寝ろ、もう一度寝てろ!!」
「え?ボク、また寝るの?」
「寝たフリでもしとけ!!」
「分かった~!!」
ただならぬオランの気迫にリョウは応じて、言われた通りにベッドに戻る。
そして布団を被ると背中を向けて『寝たフリ』を始めた。
オランとしては、リョウにアヤメの肌を見せる訳にはいかないのだ。
3人は一緒に入浴もしているのだが、それ以外では許せないらしい。
こういう時、素直で聞き分けの良いリョウは『お利口さん』で助かる。
「アヤメ、どうした?」
オランは、鏡の前で微動だにしないアヤメの背後に近付くと、その肩に手を置いた。
オランの手が、アヤメの露出した肩に触れた瞬間。
「きゃんっ……!!」
アヤメが何とも言えない声を上げながら、ビクっと反応して身を縮こまらせた。
オランが驚いて手を離すと、アヤメが振り返った。
唇をキュッと結んで体を震わせて、その瞳には涙をいっぱい浮かべている。
「いや…触っちゃダメぇ……」
アヤメの挙動に、オランは驚きよりも疑問を感じた。
アヤメが甘えてくる事はあっても、触れる行為を拒否された事など今までにない。
だが、アヤメがすぐにその疑問の答えを口にした。
「全身が茶色くて、痛くて熱いの……私、どうしちゃったの……?」
「……よく見せてみろ」
「うん」
寝間着をはだけて、胸の上まで出しているアヤメの肌を見て確認する。
薄い小麦色の肌に、元々の白い肌の色がビキニの形の跡となってクッキリと見える。
これは、海に行った時に長時間、夏の太陽に照らされたからだ。
「あぁ、日焼けだな」
「ヒヤケ?病気なの?治るの?」
「太陽の日差しで肌が焼けただけだ。心配いらねぇ、自然に治る」
オランにとって問題なのは、アヤメに触れると痛がられてしまう事だ。
これは当分、アヤメに甘い調教をするのは難しいかもしれない。
それ以前に、アヤメが妊娠中でも調教しようと考えるのが問題である。
「オランは大丈夫なの?」
「あぁ、慣れてるからな」
「オラン、すごい、かっこいい……好き」
「当然だ、もっと言え」
事あるごとに惚れ直すアヤメに快感を覚えるオランであった。
オランは元々、悪魔特有の褐色肌である。夏の日差しの影響も受けない。
アヤメは元々、色白であり日焼けをしたとは言え、オランと並ぶと肌の白さが際立つ。
「う~ん、でも、ちょっと残念……」
アヤメが、オランと自分の肌を見比べて、ため息をついた。
「もう少しで、私もオラン色になれたのに……」
肌の色すら、オランと同じ色に染まりたい。
そんな意地らしい想いが可愛くて、オランはアヤメを抱きしめようと手を伸ばしたが…思い止まった。
確実に痛がられてしまうからだ。
「そのままでいい。アヤメ色も可愛いぜ」
「ほんと?なら、このままでいい……」
「それよりも、何か忘れてねえか?」
「あ……おはよう、オラン」
思い出したように付け加えられた挨拶に、オランは少し不満そうにした。
「それだけか?」
「……好き。愛してる」
そんなオランの不満すらも、付け加えられた言葉で全てが払拭される。
それはまるで、愛という名の魔法の言葉。
少し遅くなったが、ようやく習慣の『朝の口付け』を交わす。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん、もういいー?」
ベッドの布団の中で『寝たフリ』をして背中を向けているリョウが、問いかけた。
……口が塞がっている二人が、答えられるはずもない。
熱い肌に、熱い唇……二人の季節は、常に真夏の太陽のように熱いのである。
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