第18話『婚礼の儀式』

3/6
前へ
/79ページ
次へ
「なんだ、どうした、アヤメ!?」 「なに、どうしたの、お姉ちゃん!?」 オランとリョウが、鏡の前で立ち尽くすアヤメの背中に駆け寄る。 着替えの途中だったアヤメは、肩から胸元まで肌を露出させている。 それに気付いたオランは振り返ると、リョウに向かって叫んだ。 「待て、ガキは来るな!!寝ろ、もう一度寝てろ!!」 「え?ボク、また寝るの?」 「寝たフリでもしとけ!!」 「分かった~!!」 ただならぬオランの気迫にリョウは応じて、言われた通りにベッドに戻る。 そして布団を被ると背中を向けて『寝たフリ』を始めた。 オランとしては、リョウにアヤメの肌を見せる訳にはいかないのだ。 3人は一緒に入浴もしているのだが、それ以外では許せないらしい。 こういう時、素直で聞き分けの良いリョウは『お利口さん』で助かる。 「アヤメ、どうした?」 オランは、鏡の前で微動だにしないアヤメの背後に近付くと、その肩に手を置いた。 オランの手が、アヤメの露出した肩に触れた瞬間。 「きゃんっ……!!」 アヤメが何とも言えない声を上げながら、ビクっと反応して身を縮こまらせた。 オランが驚いて手を離すと、アヤメが振り返った。 唇をキュッと結んで体を震わせて、その瞳には涙をいっぱい浮かべている。 「いや…触っちゃダメぇ……」 アヤメの挙動に、オランは驚きよりも疑問を感じた。 アヤメが甘えてくる事はあっても、触れる行為を拒否された事など今までにない。 だが、アヤメがすぐにその疑問の答えを口にした。 「全身が茶色くて、痛くて熱いの……私、どうしちゃったの……?」 「……よく見せてみろ」 「うん」 寝間着をはだけて、胸の上まで出しているアヤメの肌を見て確認する。 薄い小麦色の肌に、元々の白い肌の色がビキニの形の跡となってクッキリと見える。 これは、海に行った時に長時間、夏の太陽に照らされたからだ。 「あぁ、日焼けだな」 「ヒヤケ?病気なの?治るの?」 「太陽の日差しで肌が焼けただけだ。心配いらねぇ、自然に治る」 オランにとって問題なのは、アヤメに触れると痛がられてしまう事だ。 これは当分、アヤメに甘い調教をするのは難しいかもしれない。 それ以前に、アヤメが妊娠中でも調教しようと考えるのが問題である。 「オランは大丈夫なの?」 「あぁ、慣れてるからな」 「オラン、すごい、かっこいい……好き」 「当然だ、もっと言え」 事あるごとに惚れ直すアヤメに快感を覚えるオランであった。 オランは元々、悪魔特有の褐色肌である。夏の日差しの影響も受けない。 アヤメは元々、色白であり日焼けをしたとは言え、オランと並ぶと肌の白さが際立つ。 「う~ん、でも、ちょっと残念……」 アヤメが、オランと自分の肌を見比べて、ため息をついた。 「もう少しで、私もオラン色になれたのに……」 肌の色すら、オランと同じ色に染まりたい。 そんな意地らしい想いが可愛くて、オランはアヤメを抱きしめようと手を伸ばしたが…思い止まった。 確実に痛がられてしまうからだ。 「そのままでいい。アヤメ色も可愛いぜ」 「ほんと?なら、このままでいい……」 「それよりも、何か忘れてねえか?」 「あ……おはよう、オラン」 思い出したように付け加えられた挨拶に、オランは少し不満そうにした。 「それだけか?」 「……好き。愛してる」 そんなオランの不満すらも、付け加えられた言葉で全てが払拭される。 それはまるで、愛という名の魔法の言葉。 少し遅くなったが、ようやく習慣の『朝の口付け』を交わす。 「お兄ちゃん、お姉ちゃん、もういいー?」 ベッドの布団の中で『寝たフリ』をして背中を向けているリョウが、問いかけた。 ……口が塞がっている二人が、答えられるはずもない。 熱い肌に、熱い唇……二人の季節は、常に真夏の太陽のように熱いのである。
/79ページ

最初のコメントを投稿しよう!

192人が本棚に入れています
本棚に追加