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仕方なく、オランはリョウの小さな手を握り返す。
意識を集中して、リョウの魔力を感じ取る。
(コイツ……は……!?)
オランは心で驚愕した。
幼く小さなリョウの中に潜む、膨大な魔力に。
おそらくリョウが扱えるのは、この秘めた魔力の内の一部分に過ぎない。
完璧ではないが、リョウは空間移動や回復魔法などの高度な魔法を使える。
天界の王の側近候補として将来を期待される、優秀な天使であるという事実も頷ける。
だが、ここまでの魔力となると、別の意味で将来を危惧してしまう。
「お兄ちゃん、どう?」
リョウが透き通った水色の瞳を輝かせて、オランを期待の目で見ている。
オランは、ハッとして意識を現実に戻した。
「あ、あぁ…大したモンだぜ」
「わーい!お兄ちゃんに、ほめられた!!」
「すごい!良かったね、リョウくん」
オランは、呆然とリョウの姿を見ていた。
生まれながらにして、完璧と言えるほどの魔力を持つ天使リョウ。
それは皮肉にも、これから生まれてくる我が子とは逆なのだ。
「おい、ガキ……リョウ」
オランが珍しく、リョウを名前で呼んだ。
その赤い悪魔の瞳には、幼い天使を案じる憂いを帯びていた。
「なぁに?オランお兄ちゃん」
リョウは嬉しそうにして、オランを名前で呼び返した。
だがオランは、何かを言いかけて……思い止まった。
……なぜ、オレ様がコイツの将来を心配する必要がある?
魔界と天界は協定を結んでおり、敵対はしていない。
だからと言って、積極的に交流をしている訳でもない。
リョウが強大な魔力を使いこなせるまでに成長しても、魔界の脅威になる事はない。
考え込んでいるオランの瞳に、自分を見つめる愛らしい少女の笑顔が映った。
「オラン、お腹空いたよ。朝ご飯食べに行こう」
何も知らずに、ただ幸せな未来を思い描いているアヤメは常に笑顔だ。
オランは、確かに誓ったのだ。
アヤメを『もっと幸せにしてやる』と。
この先に何があろうと、この笑顔を絶やす訳にはいかない。
「リョウくんも、はやく行こう」
「うん!!」
手を繋いで食堂に向かおうとするアヤメとリョウの姿を見ながら、オランは思った。
リョウも、我が子のように…過酷な運命を背負って生きる事になるだろうと。
完璧な魔力を『持たない』悪魔の子は、過酷な運命を背負う。
完璧な魔力を『持ち過ぎた』天使の子も、過酷な運命を背負う。
(本当に皮肉なモンだな……運命ってヤツは)
もし、リョウのように強大な魔力を持つ者がいたとして、自分ならばどうするか?
あの天界の王ならば、どうするか?
確実に『手中に収めようとする』だろう。
本人の意思とは無関係に。
(いや…オレ様は天王のヤツとは違う)
しかし、それは純粋無垢な少女を調教して手に入れた自分に重なる。
そして、『彼』の時とも重なる。
オランは、今ここにはいない…側近である魔獣の『彼』を思い浮かべた。
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