本編

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去年の十二月。珍しく冬の夜に、雪が散らついてた。 小さな小粒の雪。 時間は記憶にない。そんな事に、神経が傾かんかったという方が適切かもしれん。 何より印象に残るのは、ワタシの感情が、こんな雪のように優しくなかったということだ。 人生の中でも、最大級に荒れていた日。それは、当時の恋人に二股をかけられていた事を知ってしまった直後やったから。 バイト終わりに、相手の家に行くと、友人だと思っていた女と裸姿だったのを見せつけられてしまった。 一瞬で、ワタシの視界は歪んだ。現実が現実だと信じれへんくなった。 二人の目の前で暴れるだけ暴れて、あとは、苛立ちと虚しさの波が交互に迫ってくるのを、ただ、受け止めてた。 歩いて帰りながら、コンビニで買った500mlのビールをニ缶開けていた。 頭は酔いで少し回っていたかもしれへん。 そんな最中。突然に、塊のような人体に出くわしたのは。 初めは、女性がただ酔っ払って、路上で眠っているだけだと思った。背中が、微かに動いていたから。 ワタシは、足で体をこついた。 「起きや。女がこんなとこで寝てたらあかんよ」 同姓として、本当にそう思っての忠告やった。だけど、それが間違ってたと思ったのは、雪が赤く染まっていたことに気が付いたから。 一瞬でワタシは怖くなって、走るように逃げた。確かに、周りには誰もおらんかった。やけど、あんな時に、厄介な事に巻き込まれたくなかった。 家に帰っても、きっと誰かが救急車を、呼んでいる。そう思っていた。 だけど、あの人、死んだ。 それを知ったのは、翌日のネットニュース。 体が震えた。 だけど、悪くない。ワタシは、何も悪くない。だってワタシは、何もしてへん。それに、別件であいつらに裏切られた被害者やし。 何度も自分に、そう言い聞かしていた。
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