7人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
翌朝、いつもの時間に駅へと向かう。
何気ない風を装いながら周囲を窺っていると、彼がやってくるのが見えた。反対側のホームへと渡る連絡通路に先回りして、ゆっくり歩きながら後ろから彼がやって来るのを待つ。
スマホを見ているフリをして、実は背中越しにフロントカメラで後ろを確認。画面に映った彼との距離がどんどん近づいてくるのがわかる。
あと数歩というところでスマホを閉じ、私はポケットに手を入れた。
「いい? 詳しく説明すると効果がなくなっちゃうから言えないけど、恋が成功するおまじないを掛けたハンカチを貸してあげるから。その代わり、絶対見ちゃ駄目よ。ポケットに手を入れて触っても駄目。何も考えないで、その時が来たらさっと落とすの。いいわね?」
朝、家を出る前に、お姉ちゃんはそう言って私のポケットにハンカチを突っ込んだ。
言いつけを守り、一緒に入っていたティッシュを取り出すフリをしてポロリとハンカチを落とす。指に触れたハンカチの感触に違和感を感じたような気もするけど、真後ろに彼が迫り、テンパっている私にはいちいち確認している余裕は無かった。
落としものになんて気づかないフリをし、そのままのペースを意識してスタスタと歩き続ける。
……あれ?
本当ならすぐさま彼が「落としものですよ」と呼び止めてくれるはずなのに、なかなか声が掛からない。背後の気配から、彼が立ち止まったのは間違いないのに。
一体どうしたんだろう? スマホを出してカメラで確認しようと画面を立ち上げかけたその時、
「あの……」
待ちわびた控え目な声に、私はすぐさま振り向いた。
「これ……その、多分、落としもの、かと……」
彼は心なしか顔を赤くして、私を避けるように視線をキョロキョロと泳がせていた。どうにも様子がおかしいと不審に思いながらも「すみません!」と駆け戻った私に、彼はおずおずと落としものを差し出す。
「……どうぞ」
ふわり、と手の上に載せられたものを見て、私は自分の目を疑った。
ハンカチにしては薄いソフトピンクのその布には、妙に光沢もあって……こんなハンカチ、持ってたかしら? でもどことなく見覚えがある気も……。
ふと、そこに付いている小さなリボンに気づいた時、私は顔から火を噴いた。
……ハンカチじゃない。
それはどこからどう見ても私の下着。つまり、パンティーだった。
最初のコメントを投稿しよう!