ばかな猫のはなし

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 山猫の親子が住んでいました。 この母親は、とても、お人好しで、お節介な猫でした。  ある日、となりの狐夫妻に、頼まれごとをして、 狐夫妻の家に行った時のこと。  狐夫妻が旅行のあいだ、 宅配で届く、ミルクとパンを、狐の家の冷蔵庫に、 しまってきてほしいと言われたので、 ご近所のこともあり、無下にできず、山猫の母親は、 出かけて行ったのでした。  狐の家の前で、狐宛の宅配が届くのを待ち、 それを受け取ると、冷蔵庫にミルクとパンを運んでしまい入れている時、 山猫の母親は、何かにつまずいてしまいました。 なんせ、狐の家と言ったら、薄暗がりで、片付いておらず、 物があちこちに置いてあるのですから。  もちろん、狐は、自分の家なので、 慣れたもので、かっても知っているから、散らかっていても、 転ぶこともなく、いいでしょうけれどね。  山猫の母親は、足の骨を折ってしまったのか、 しばらく、痛くてじっとしていましたが、 少し、痛みがおさまったので、 そのまま家に帰りました。  これを聞いた、山猫の娘は、とても怒りました。 なんといっても、このひとのいい、 母が、歯がゆくて、哀れだったのです。  「お母さんがいつもお節介なのが、いけないのよ。 こう言って、あげればよかったじゃない。 〈あら、旅行へ行くんでしょう? なら、食料は、家にいりませんわね。 うちでかわりに、いただきましょうか?〉ってね。」  「あんた、ご近所のことを、どうしてそう悪く言うの? 何でお世話になるか、わからないんだから。」  「お母さんと、あのおばさんは、仲がいいのかもしれないけれど、 私は、あの人のこと、嫌いなの。 お母さんが死んだら、この山猫の家を、売ればいいって、 前、私に言ったのよ。そんな人のこと、ほっとけばいいんだわ。」  山猫の娘は、母親が、宅配が来るのを、ずっと、 〈他人〉の家の前で、待っていたこと、 知らない〈他人〉の家に入って、ミルクを運んであげたことなどを思い浮かべて、母親が可哀想だと、思ったのでした。  昔話でも、童話でも、他人に、優しくすればいいって、 ありますけど、 優しい人がばかをみるなんて、嫌ですものね。
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