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そろそろ我慢の限界を超えそうだった今日。ストレスの原因となっている工事の業者に直談判しに行くことを決めた。
「あの、ちょっとよろしいですか!」
現場へ向かい、電気ドリルで穴を掘っているひとりの作業員に声をかけた。穴を掘る大きな音でも僕の声は届いたらしく、背を向けていた巨体がくるりと振り返った。
「なにか用かい?」
そのひとは僕を見るなり、にっこりと笑って返事をした。
図体は大きくヘルメットを被り、首には白いタオルを巻き付けていると言う、どこにでもいる工事業者のスタイルだ。そのなかでも一段と輝く白い歯が印象的だった。
「ぼ、僕はとなりのマンションに住んでいる者なんですが、そちらの工事の騒音がひどくて……せめてもう少し静かにできませんか?」
注意すると決めたものの、工事側の都合もあるから音を止めることは無理なのはわかっている。僕はただ、もう少し静かにしてほしいだけなのだから。
あまり波風を立てたくないので、できるだけ穏便に事を運ぶような言い方を心掛けた。
その作業員は一瞬 呆気にとられた表情で固まっていたが、
「ごめん、それは無理かな」
眩しく光る歯とともに、爽やかな笑顔で断ってきた。
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