鬼のミヤコちゃん

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 二人で暮らす新居にもミヤコちゃんを連れて行った。荷物を片付けている最中、ぼくの抱える箱を見て妻は「それ、なぁに?」と訊いてきた。ぼくはフタを開けて中身を見せる。 「ドールハウス?」  凝り性が高じて、ミヤコちゃんの部屋(もはや飼育ケースでもない)は更にグレードアップしていた。中には小さな手作りのベッドと、可愛らしい模様の入ったカーテンと絨毯、それにタンスが入れてあった。ミヤコちゃんは先に自室の引き出しに隠していたので、この中には入っていない。 「素人の趣味だけどね」  しかも外側は作っておらず室内だけ。そう言って軽く笑うと、妻も「適当な趣味だなぁ」なんて笑ってくれた。  妻に見せる前にミヤコちゃんにも披露しており、その時に使い勝手は確かめていた。虫の姿ながら、ベッドに横たわるミヤコちゃんは可愛らしくも思えた。タンス風の入れ物の中には食べ物をしまっておくこともできる。ぼくが構ってあげられない時にここを開けて食べてくれたら、と考えて作ってみた。 「日光にあたると塗料がはげたりするから、日陰に置いておくようにしてね」  賢明な妻のことだから人のものを勝手にいじることはないだろうけど、そう告げておく。こだわりなく頷いてくれたので、ぼくは安心してその箱を自室に置くことができた。  仕事が終わって帰宅した時や夕飯を食べ終えた後、寝室に行く前などにぼくはミヤコちゃんの部屋を覗いては彼女の様子を確認した。指先で突いて少し苛めてみる。  ミヤコちゃんはやっぱりずっとうごうごと蠢くだけの巨大な幼虫で、ただその箱の中で生きていた。
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