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私の目に最初に飛び込んできたのは、少し離れた場所にあるオフィスビルの窓。そしてそこで必死にパソコンに向かう男性の姿だった。
彼はキーボードで入力作業をしているようだが、見た感じかなり焦っているようだ。
素早く首を上下に振って、画面とキーボードを交互に見ている。
私は少しずつ双眼鏡の角度を下げてみる。どのフロアも白い蛍光灯の下で、大勢の人間が動き回っていた。
立ったり座ったりを繰り返す人、窮屈そうなスーツ姿で走る人、誰もいない虚空に向かって頭を下げながら電話をする人。
レンズから目を離し、左手に着けた時計を見ると針は夜九時を指していた。
再びレンズを覗き込み、今度はキラキラと輝く地上に目を向ける。丸く映る世界は眩しかった。
繁華街に溢れかえる人間たち。
真っ直ぐに延びる広い道路では赤いランプを灯した車が先の見えない長い列を作り、薄暗いラブホテルが立ち並ぶ道にはやけに爛々とした看板が掲げられている。
双眼鏡から目を離すと、私の前には何も変わらない新宿の街が広がっていた。
しかし私の目に映るのは、宝石のような輝きではない。蛍光灯を反射して光るアルミホイルのような鈍い輝きだった。
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