責任と約束

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 半日ほど歩いた。森を抜け、拠点としている町が少しずつ見えてきた。 「まずはギルドに勇者探索依頼の報告をしてだな。」  この後の予定を考えながら町に入ると、町が騒がしいことに気付いた。賑やかなのはいつも通りなのだが、賑やかさの中に怒号が混じり、殺気まで感じる。明らかに何かがおかしかった。 「おい、騒がしいけど何かあったのか?」  若者は、広場に向かって駆けていく男を捕まえて聞いてみる。急に止められた男は迷惑そうな顔で答えた。 「今、広場に魔王が居るんだってよ!弱ってるらしく、殺すチャンスなんだと!」  若者が駆け付けたときには、すでに広場には人だかりができていた。人々は手に持った石を広場の中央に投げつけている。そして一定の間隔で歓声が沸きあがっていた。 「おい、魔王が居るって本当か?」  若者は人だかりの端にいた男に聞いた。 「おう、そうらしいぜ。今、ギルド長が広場の中心で直々に嬲り殺しにしてるんだと。まぁ、ここからじゃなーんにも見えないがな!」  男はガハハと笑う。若者はその言葉を聞いて胸が躍った。魔王をこの手で殺し、故郷の敵討ちをするチャンスが目の前に転がり込んできた。そう思った瞬間、若者は居ても立ってもいられなくなり群衆の中に飛び込んで行った。  もみくちゃになりながら、なんとか広場の中央に抜けたとき、丁度ギルド長が魔王の腹に拳をめり込ませて吹きとばしていたところだった。魔王は空中をポーンと飛び、広場の石畳にベチャっと転がる。そこに民衆が石を投げつける。魔王はよろよろと身体を丸めて、石から身を守ろうとする。ギルド長は魔王にゆっくり近づくと、今度は魔王の頭をボールを蹴るように容赦なく蹴り上げる。魔王は無様にもゴロゴロと転がりながら石畳の上にうずくまる。そこへ再び民衆が石を投げつけていた。  その様子を最前列で若者も見ていた。周りが熱狂する中、若者は魔王のところへ駆けだした。 「やめろぉぉぉぉ!」  若者は力の限り叫んだ。魔王のところへ滑り込む。魔王を腕の中に抱え込むと、周りを見渡しながら喉が裂けるのではないかというほどの声で叫ぶ。 「お前ら!頭がおかしくなったのか?!」  若者は腕の中の魔王と呼ばれる存在をチラリと見てから、そのまま叫ぶ。 「こいつの・・・どこが魔王だ?!」  若者の手の中でボロボロになり虫の息になっていたのは、昨日の夜からいなくなっていた少女だった。  先程の熱狂が嘘のように広場は静まり返っていた。 「お前ぇは・・・いつも魔王をぶっ殺すって言ってたガキじゃねぇか。」  ギルド長は若者に冷ややかな目を向けながら続ける。 「そいつが魔王だよ。本人が言ってるし、魔王しか知りえないことも知っていた。間違いねぇ。」 「でも…!」 「でも、何だ?ガキだから許すのか?女だから見逃すのか?」  ギルド長はゆっくりと剣を抜きながら、声を荒げて言った。 「てめぇの村の人間殺したのはそいつだ!そのときの悔しさ、憎しみはその程度なのか?!」  若者が返事に迷った。確かに村人の仇を取りたいと冒険者になった。そのために努力もしてきた。いつしか生きる目的にすらなっていた。若者が何も言えずにいると、手元から消えそうな声が聞こえた。若者は急いで少女の口元に耳を寄せる。 「いいんだ・・・殺してくれ・・・。」 少女のその言葉を聞いた瞬間、なにかがはじけた。若者は剣を抜き、震える切っ先をギルド長に向けた。
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